消して、奪って、きみだけを
「だめ、って……どうするの?」
「記憶を取り戻す。わたしたちの間にあったことをちゃんと思い出すの。どうするかはそれから決める」
自分のしたことの大きさも重さも理解した上で、もう一度叶人くんと向き合いたい。
わたしたちの時間はまだ、七年前から止まったままだから。
「……それがいいと思う。いい思い出ばっかじゃねぇだろうけど、本来、その辛さも苦しさもおまえのもんなんだから。決めるのはおまえだ」
凜とそう言ってくれた涼を心強く思いながら頷き返す。
彼はいつも支えてくれるけれど、背中を押してくれているというより、背中合わせに立ってくれているみたい。
安心感と頼もしさがいつだってわたしに前を向かせてくれた。
「俺らとのことはひとまずあいつにバレねぇようにした方がいいな」
「そう、だね」
悟られた時点で記憶の保証はなく、今度は関係性の忘却だけでは済まないかもしれない。
いくらふたりがいてくれるとはいえ、それでは遠回りの堂々巡りになってしまう。
そして、表立って仲良くしていてはまたふたりがわたしのせいで陥れられる危険性もあった。
叶人くんの不安が制御不能なものになっているなら、かなり危うい予感がする。
「じゃあ、堂々と話したりすることも控えるべきだね。あたしはもう何を仕掛けられても跳ね返す気でいるけど、羽衣の記憶が懸かってるなら」
「マスコットに盗聴器を仕込んでたことを思えば、それくらいのことをまたやってもおかしくねぇよな」
眉をひそめる日和に、険しい表情の涼が続いた。
「通話も怪しいし、メッセージも監視されてるかも」
「そ、そこまでされたことはないよ」
「あくまで直接は、だろ? こっそり裏でやってても俺はいまさら驚かねぇ」
涼の言葉に喉元をひやりとした空気が通り抜ける。
さすがに度を越していると思ったけれど、実際にここまで叶人くんがしてきたことを思えば、もはやありえない話でもないのかもしれなかった。
叶人くんがしてきたことは、倫理的に外れているし正当性の欠片もない。
何人もを傷つけてきたことも事実。
そんなはずない、と彼を信じたくなる気持ちも湧くし、善性を見出して崇高な理由を求めたくなるけれど、そんな段階では既になくなっていた。
想いがあれば何をしても許せるわけではない。
だけど、悪いことをしていたから失望して嫌いになる、なんて一本道の単純な感情でもない。
ただ、まだすべてを知ったわけじゃない。
叶人くんの口から聞いたわけでもないし、記憶も空白だらけ。
決めるのはわたしでも、その状態で結論を出すことはできない。