消して、奪って、きみだけを

 そう結びついたときから、恐怖は消え去った。

 直接わたしに言わないのは、言えないのは、嫌われたくないから……?

 それでもこんな形でぶつけずにはいられないほど、身を切るような不安に侵食(しんしょく)されているのだろうか。

「……またストーカーってこと?」

「えっと、それは……」

 どう伝えればいいのか分からなくて言いよどんでしまう。

(そうじゃなくて、本当は叶人くんが送ってるんだよね……?)

 けれど、それを暴いて突きつけたいわけじゃない。

 そこまで高じた不安を少しでも和らげたい。
 嫌いになんてなるはずがない、とどうしたら伝わるんだろう。

 そんなことを考えていると、ふいに手を取られた。
 ぎゅ、と包み込むように握ってくれる。

「怖がらなくても大丈夫だよ、僕がついてるから。羽衣のことは僕が守る」

 あまりにもあたたかくて優しい微笑みに一瞬、憶測がすべて間違っていたのではないかと思った。
 変わらない温もりは悲しいくらいに安心感をくれる。

「現状で怪しいのは……篠崎くんじゃないかな」

 笑みを消し、厳しい表情で叶人くんが言う。
 そのひとことにはっとした。

「彼は羽衣をあんなふうに傷つけたし、逆恨みしてストーカーになってもおかしくない。あのあともしつこく羽衣のことばかり見てたし……」

 言葉に熱が込もるほど、わたしの手を握る力も温もりを見失うくらい強まった。

 涼のことを正しく思い出せていなければ、記憶がないわたしは流されていたかもしれない。

 それと同時に思い至る。
 叶人くんは、わたしが涼のことを忘れたままだと信じている。

 ダイレクトメッセージのことをこうして叶人くんに相談するであろうことは想定していたはず。

 もともとそう言うつもりで用意していたのか、自分のことを隠し通すために涼を犯人に仕立て上げたのか。

 いずれにしても、受け入れられる結論じゃなかった。

(でも……)

 ここで下手に反論したり、涼を庇ったりすると、また記憶を消されてしまうかもしれない。

 それに、何よりわたしがそうすることで叶人くんを傷つけるのが怖かった。
 不安を煽ったり増幅させたりするのは、わたしだって耐えられない。

「とにかく、羽衣は何も心配しなくていいよ。僕がずっとそばにいる」

 手を離さないまま、指を絡めて握られる。
 ほどけるような柔らかい笑顔にむしろ胸が締めつけられて苦しくなった。

(それはわたしの台詞だよ……)

 喉元まで出かかった言葉を慌てて飲み込み、曖昧に笑って頷く。

 こんなに近くにいるのに、いまのわたしじゃ不安を埋められない。

 そばにいる。
 離れない。
 好き。

 触れた手からせめてそんな気持ちだけでも伝わって欲しいと願いながら、わたしも強く握り返した。
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