消して、奪って、きみだけを
堂々と宣言する涼の顔には恐れも迷いもない。
そう来るとは思わなくて驚いてしまう。
「おまえももう分かってると思うけど、それでも……おまえの前でそうすることに意味があると思うんだよ」
彼は真剣な調子を崩さないまま、けれどどこか居心地悪そうにそう続けた。
たぶんその先に隠された言葉は、叶人くんのために、だと思う。
「……わたしもそうしたい」
暴くのでも、罪を突きつけるのでもなく、もうこんなことをする必要なんてないと分かって欲しいから。
完璧な仮面を外してあげたい。
汚れた手を取って握り締めたい。
消えてしまったふたりの時間と、奪われてしまっていた彼の本当の笑顔を、記憶と一緒に取り戻したかった。
わたしが一端を担う必要がある。
きっと、そうやって彼から笑顔を奪うのも返すのも、わたしにしかできないことだから────。
追い詰めるためではなく、叶人くんを歪んだ思考や役割から解放するためにそうしたい。
これ以上、あと戻りできなくなる前に。
意外そうに目を見張ったふたりだったけれど、顔を見合わせるとまっすぐに頷き返してくれた。
明けない夜もないし、終わらない冬もないように、止まない雨だってない。
放課後になると、叶人くんと帰路についた。
頭上に広がる雲は心なしか厚みを増し、色を濃くしているように感じられた。
彼はいつも通り平然として見えるけれど、その内側が吹雪いていることを思うとたまらなくなる。
その手を取って、ぎゅっと繋いだ。
驚いたように足を止め、こちらを向いた彼の瞳は揺れている。
けれど、すぐに柔らかく微笑みかけてくれた。
「……大丈夫だよ、羽衣。怖がらないで」
どうやら、ストーカーの気配に怯えてそうしたと思ったみたい。
同じくらいの力を込めて握り返してくれた手は優しいのに、いつもより冷えている気がした。
「でも、そうやって追い詰められるのも無理ないよね。ここ数日、あいつはずっと羽衣のそばを張ってるみたいだったし」
いっそう力が入ったのが分かる。
確かに涼はあえてそうしていた────叶人くんの思惑に沿って、というのと、きっと半分くらいは純粋にわたしを心配してくれていたのだと思う。
だけど、叶人くんがそれを怪訝に思って苛立つことも理解できる。
都合のいいように現実を誘導しても、彼の感情と不安そのものに偽りがないのも事実だから。
だから、本来ならもっと穴のないやり方で仕向けていたはずだ。
いつもの叶人くんなら、こんな綻びを残したまま動いたりしない。
それなのに、もうそんな余裕すら失っているのだろう。