消して、奪って、きみだけを

「このままエスカレートして、羽衣に直接手出しするようになったら────」

「じゃあ、警察行こう……?」

 そう言うと、叶人くんの表情に動揺の色が混ざった。

「DMを証拠にストーカーだって相談すれば、警察も動いてくれるかも」

「……どうかな。このアカウントが篠崎くんだって証明はできないし、実害があるわけでもないから、警察なんて大げさじゃない?」

「叶人くんは、心配してくれてるんじゃないの……?」

 目に見えて渋る彼はどこか焦っているようにも見えた。
 そう聞き返すと、ゆらゆらと揺れる視線をさまよわせて伏せる。

「それ、は……」

「警察は困るよな? そんな大ごとになったら、おまえの自作自演だってバレちまう」

 そんな声に振り向くと、涼が鋭い眼差しで叶人くんを捉えていた。
 一緒に現れた日和は腕を組んで言葉を繋ぐ。

「ちがうって言うなら、いまここで羽衣のアカウントからこのストーカーに返信する。もしかしたら……あんたのスマホに届いたりして」

 状況が飲み込めない様子で言葉を失った叶人くんは、戸惑ったようにわたしを見た。

 まるごと受け止めて彼に向き直ると、おずおずと口を開く。

「ごめんなさい……。わたし、本当はもうぜんぶ分かってるの」

「え……?」

「ふたりの言う通り、このDMの送り主が叶人くんだってことも、叶人くんがこれまでしてきたことも」

 彼の表情が強張り、色を失っていく。

「羽衣、僕は……」

 緩んだ手がほどけると、輪郭まで一段淡くなったような気がした。
 いまにも壊れてしまいそうなほど儚げで脆い。

「でも、そんなこと必要なかった……。助けてくれたから好きになったんじゃないよ」

 きっと“永遠”という言葉も愛情を返されることも信じられないから、世界を檻にして閉じ込めておかないと不安なんだ。

 だけど、叶人くんのそばにいたのは報いるためでも償うためでもない。
 好きだから、一緒にいたいだけ。

「わたしの気持ちは、あの頃からずっと変わらない。そんなふうに手を回さなくても、叶人くんから離れたりなんかしない。嫌いになんてなるわけない」

 彼のために世界を狭めることと、彼を見捨てないことは別だ。
 わたしの罪も、叶人くんの罪もちゃんと知りたい。

 記憶が戻ったら、7年間抱え続けてきたはずの言葉を今度こそ届けられるだろうか。
 そうしたら罪悪感の鎖は解けるだろうか。
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