消して、奪って、きみだけを
いつもわたしの家に遊びにきたとき、こうするのは彼の方だった。
叶人くんは唇を噛むようにして逡巡したあと、こくりと頷いてくれる。
『わかった。もう少しだけ……』
────それから結局、日が沈むまで一緒に遊んだ。
時間が止まればいいのに、と何度も願ったけれど、無情にも太陽はわたしたちを置いて消えてしまった。
薄暗い道をふたりで歩いていくと、ほどなくして叶人くんの家が近づいてくる。
お城みたいな洋風の大きな家。
窓からはあたたかい色の明かりが漏れていた。
『また明日ね』
アンティーク調の門を潜った彼にそう笑いかけて手を振ると、ふいに叶人くんが黒い格子を掴んだ。
『待って』
何だかただならぬ様子でそう呼び止められて驚いたものの、叶人くんは口をつぐんでうつむく。
『……なんでもない。またね』
するりと手を離し、やわい笑みを残してきびすを返していく。
どうしたんだろう、と首を傾げつつ、普段よりもどこか小さく感じられる後ろ姿を見送ってわたしも帰路についた。
カランカラン、と澄んだベルの音が聞こえてくる。
その直後、何かと何かがぶつかるような鈍い衝突音が耳に飛び込んできた。
びくりと肩が跳ね、思わず足を止める。
(なに……?)
薄暗がりに沈んだ叶人くんの家を振り返ると、明かりをこぼす窓が少し開いていることに気がつく。
いまのは彼の家から聞こえてきた音?
そっと門を押し開けると、足音を忍ばせて窓に近づいた。
わたしの家で遊ぶことはあっても、彼の家に遊びにきたことはなく、こうして門を越えることすら初めてだった。
外壁に沿って立ち、慎重に耳をそばだてる。
『……の? 時間すら守れないの? 親の言うことが聞けないような出来損ないに育てたつもりはないわよ』
淡々と冷酷な声に跳ねた心臓が早鐘を打った。
それが彼のお母さんの言葉だと理解するまでに数秒かかり、そうと分かっても信じられないで立ち尽くす。
『あなたの行動はぜんぶわたしの責任になるの。あなたが勝手なことをするたび、わたしが恥をかくの。こんな簡単な言いつけも守れないなんて、どこまで失望させれば気が済むの? これ以上、わたしを裏切らないで』
『ごめ……なさい』
『謝罪も言い訳も聞きたくない』
感情的に怒鳴り散らすよりよっぽど恐ろしく、衝撃的だったことを覚えている。
身体の芯から凍てついてしまいそうだった。
来なさい、と声が聞こえて、叶人くんの苦しむような痛がるような呻き声が続いた。
背伸びをしてたまらず窓から家の中を覗く。