消して、奪って、きみだけを

 ふと、伸びてきた叶人くんの手がわたしの手に触れた。

 優しく包み込まれて、あたたかい体温が染み込んでくる。
 強張って震えていた手から、ほどけるように力が抜けていった。

「怖かったよね。持ちものまで勝手に触られてたなんて、知らない誰かが入り込んでくるみたいで。よくひとりで耐えたね」

 労るような眼差しも声色も、どこまでも優しくて心が震える。
 彼は手に力を込めた。

「大丈夫、僕がついてるから。もうそんなふうにひとりで抱え込まないでね」

「叶人くん……」

「羽衣は僕が守るよ」

 ふわりと微笑みかけられて、あんなに膨れ上がっていた恐怖はいつの間にか跡形(あとかた)もなく溶けていた。

 だけど、不安は残る。
 誰にも言えなかったのは、本当はほかにも理由があった。

 ストーカーの存在を誰かに話すことで、その人まで巻き込んでしまうことが怖かったのだ。
 危険に晒してしまう可能性がある。

 たまらず打ち明けてしまったとはいえ、迷わず“守る”とまで言ってくれた叶人くんに驚くと同時に、正直嬉しいようなほっとしたような気持ちになった。
 涙が出そうになる。

 ────執念って、まさか……。

 ────復讐。

 危機感を煽るようなあの日の会話を受け、彼の優しさや甘さにも身構えてしまっていた。
 そんな自分が申し訳なくて忍びなくなる。

「ありがとう……」

 ごめんね、と言う前に叶人くんが口を開く。

「DMはともかく、匿名の手紙と贈りものか。どれも直接じゃないってことだよね」

「うん、いまのところは……。机の中とか靴箱の中とかにいつの間にか入れられてて」

 鞄から手つかずの飴とヘアピン、そして手紙を取り出して机に並べる。
 入れたきり触れられなくて、鞄の中で眠らせていたのだった。

 あんなにも執拗(しつよう)に視線を感じるのに、わたしのすぐ近くにいるはずなのに、姿を見たことがないからか得体が知れない。
 そのせいでなおさら恐ろしかった。

 険しい表情でそれらを手に取り眺めていた叶人くんは、ややあって顔を上げる。

「……ねぇ、これぜんぶ僕が預かってもいい?」

「え、うん。それは全然大丈夫だけど」

 思わぬ申し出だったけれど、逆にいいのだろうか。
 わたしとしては、少しでも不穏な影を遠ざけられるならそれは救いなのだけれど。

 叶人くんは手紙を折りたたむと、ヘアピンや飴と一緒にひとまずブレザーのポケットにしまった。
 それから神妙(しんみょう)に切り出す。

「姿を現さないのは単に臆病なのか、羽衣や周りに気づかれたくない理由でもあるのかな。それなら、誰かといれば牽制(けんせい)になるかも」
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