消して、奪って、きみだけを

 だんだんとストーカーの手が大胆に迫ってきているように思えた。
 次にひとりになったとき、わたしの前に姿を現したらどうしよう。

「じゃあ、今日は僕と帰ろう。明日の朝も家まで迎えにいく。とにかく、ストーカーの正体がはっきりするまで羽衣はひとりにならない方がいい」

 思わぬ言葉に顔を上げ、窺うように彼を見つめた。

「い、いいの……? 叶人くんにそこまでしてもらっちゃって」

「もちろん。むしろ、心配だからそうさせてくれないかな。行き帰りだけじゃなくて、不安なときはいつでも僕を呼んでくれていいよ。夜中でもすぐ駆けつける」

「そんな、さすがに申し訳ないよ。叶人くんの生活もあるし、家族も心配するだろうし……」

「家族? ……ああ、そっか」

 とことん尽くしてくれるような申し出に慌てるものの、彼は一瞬きょとんとした。
 目を伏せたかと思うと、一拍置いていつもの表情に戻る。

「僕の家族のことは気にしなくていいよ」

 それは確かに完璧な微笑みなのだけれど、いつもわたしに見せる顔とはちがっていた。

 冷たいわけじゃないのに温度を感じられない、踏み込むことを阻むような表情。
 まるで叶人くんの本心を覆い隠す(ろう)みたい。

「あ────」

「ただいまー! 羽衣の好きなワッフル売ってたから買ってきたよ」

 ちょうどそのとき、明るい声とともに日和が駆け寄ってきた。

 何を言おうとしたのか、自分でも定まりきらないうちに開きかけていた唇を閉じる。

「買ったのは俺だろ」

「選んだのはあたしですー」

 いつものように涼と言い合いながら、苺のワッフルを差し出してくれる。

「ありがとう、ふたりとも」

 それを受け取ったら、不思議とわたしも普段の調子に戻っていた。

「日和、半分こする?」

「あたしは大丈夫。甘いのそんな好きじゃないから」

 日和はそう言って手近な椅子に腰を下ろすと、サンドイッチの袋を破る。
 そういえば彼女は普段から甘いスイーツよりスナック菓子や駄菓子を好んで食べていた。

「俺も自分のあるから、今日は羽衣がぜんぶ食っても許す」

「あんたには聞いてないでしょ」

 同じ調子で軽口を叩き合うふたりに思わず笑いつつ「ありがとう」ともう一度口にする。

 このワッフルもふたりなりの気遣いに思えて、そのあたたかさがまた染みた。



 放課後、叶人くんとともに帰路についた。
 バスを降りて住宅街を歩いていく。

 いつどのタイミングで何が起こるかと構えていたけれど、いまのところ不穏な気配は遠ざかっているように思える。

 靴箱を開けることすら怖くなっていたのに、叶人くんがいてくれるお陰か、いまは恐怖も和らいでいた。
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