消して、奪って、きみだけを

 相手からのそんな言葉に高橋くんは当然、(いな)を示している。

【じゃあ、きみの方が彼女を強く想ってるってことを証明したらいいんだよ】

【いままでずっと見てきたんでしょ? 気づいて欲しいなら、それを彼女に伝えればいいだけ】

 それを受けた彼が“どうやって?”と聞き返すと、相手からはこんな返信が届いていた。

【簡単なことだよ。きみなら当然、好きなものだって知ってるよね? それをプレゼントしてあげたら喜ぶにちがいない】

【名前はまだ出さない方がいい。誰だろう? って考えてもらえるから。それだけ、きみのことを意識する時間が増える】

 そのアドバイスに従った結果があのストーカー行為だったと言うのなら、確かにそれはまともな判断じゃないだろう。

 きっと彼自身が言った通り、精神的に余裕をなくして思考も判断力も鈍っていたにちがいない。
 手段すら選べなくなっていたみたいだ。

 とはいえ、相手も相手だ。

 高橋くんが踏み外すような助言をそれらしく正当化しているけれど、いったいどういうつもりだったんだろう。
 順序を飛ばして、境界も(おか)している。

「……なるほど。あんたにとって羽衣がどんなに愛しいか、言葉より形にして届ければ伝わると思ったわけだ」

 日和が言うと、高橋くんは「う」と言葉に詰まった様子でわたしを見た。
 否定も肯定もしないで、唇を噛み締めると目を落とす。

「気が気じゃなかったんだ。このままじゃ、急に現れた若宮にぜんぶ持ってかれると思って……」

「でも、変だよな。こいつは何が言いたかったんだ?」

 怪訝(けげん)そうに首を傾げる涼には同感だった。
 相手の本来の意図が何だったのか、わたしにも分からない。

 そんなことを考えていると、ふと高橋くんがわたしに向き直った。

「……ごめん、桜木さん。もういまさら信じられないかもしれないけど、怖がらせたり困らせたりするつもりはなかったんだ。喜ばせたかっただけで……本当にごめん!」

 ばっ、と勢いよく頭を下げられる。
 呼び方が元に戻ったのも、彼なりの誠意と気遣いかもしれなかった。

「……もう、いいよ。大丈夫だから顔上げて」

 そう言うと、高橋くんはおずおずと顔をもたげる。

 完全に平気とは言えないけれど、怒ったり責めたり非難したりする気は、いまはどうしても湧いてこなかった。

「本当に……?」

「すごく怖かったけど、でも高橋くんが傷つけようとしてたわけじゃないんだってことは分かったから。悪かったって思ってくれてるのも」

 率直に言うと、安心した。

 あれほどの脅威だったストーカーはただ、歪んだ認識と意地の産物(さんぶつ)であって、恐怖の象徴ではなかった。

 ただ、気持ちを伝える方法を間違えてしまっただけ。

 そして道を踏み外した高橋くん自身も、ここまで反省していると分かったから。
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