消して、奪って、きみだけを
高橋くんに対する恐怖とは別の意味で、叶人くんにも怯んでしまっていた。
圧のある笑みも声色も、隙のないもの言いも、何だかぜんぶ別人みたいで。
わたしのために怒ってくれたのだと分かっていても、萎縮して言葉を失っていた。
「大丈夫? 羽衣」
一転して叶人くんは優しい眼差しを向けてくれる。
温度がないというか、むしろ低温で滾るようだった先ほどまでのそれとは明らかにちがう。
「うん、ありがとう……」
戸惑いを隠せないまま曖昧に笑い返すと、彼が何ごとか返す前に涼が歩み出た。
「ごめん、若宮。俺、誤解してひどいこと言った」
焦ったような申し訳なさそうな表情で、だけどはっきりと告げる。
当初、ストーカーは叶人くんの自作自演だと疑っていたのが見当違いだったと判明し、憶測だけで責めたことを真剣に省みているみたいだ。
涼のそういうところが、誠実で信頼に足るゆえんだと思う。
「いいよ、気にしないで。お陰で解決したし、篠崎くんがどれだけ羽衣を大事にしてるかも分かったよ」
叶人くんはその言葉通り、微塵も気を悪くしていないようで柔らかく微笑んだ。
「そりゃまあ……友だちだし」
わたしを一瞥した涼はどこかきまりが悪そうに言う。
疑惑の方向が間違っていたとはいえ、彼もまたわたしを守ろうとしてくれていただけ。
その優しさがうれしくて表情を綻ばせた。
「涼もありがとう、心配してくれて。日和も」
「あたしはついてきただけだけどね。ていうか、ぜんぶ叶人くんが解決したような……。ま、ストーカーの高橋を撃退できたからいっか!」
日和はそう言って手を打ち鳴らす。
何はともあれ、無事ストーカーの脅威から脱することができてひと安心だ。
叶人くんへの疑いも晴れたし、涼との誤解も解けたみたいで本当に何よりだった。
「それじゃ、羽衣。今度こそ帰ろうか。……またね、ふたりとも」
◆
「……とは言ったものの」
遠ざかっていく羽衣と叶人の後ろ姿を見送りながら、思わず眉根に力を込める。
何だか釈然としない。
「なに?」
「何か解せないんだよな、それこそ勘だけど」
結局、根拠も証拠も何もない。
若宮への懐疑も実のところ確信に近かっただけに、この空振りに半分拍子抜けしていた。
「まだ疑ってるの? ストーカーは高橋だったでしょ、本人も認めてたし」
「それはそうなんだけどさ」
呆れたように腕を組む日和にも、いまはそれ以上何も言えない。
実際、ストーカーの正体は高橋だった。
あいつが羽衣に好意を寄せていたことも、傍から見れば明白。
“友だち”とやらとのダイレクトメッセージで語られていたような背景があるのなら、動機はあるし疑いの余地もない。
日和の言う通り、高橋自身が認めているのだから事実なのだろう。