消して、奪って、きみだけを
俺がいくら腑に落ちないでもやもやしたところで、今回の件はこれで解決だ。
とにもかくにも、羽衣が不安や恐怖から解放されたのならよかった。
ストーカーに思い悩まされることもなくなる。
「それにしても、意外に迫力あったね」
おもむろに日和が言う。
それだけで、若宮のことを指していると分かった。
高橋を追い詰めた若宮の姿が脳裏に焼きついている。
普段、羽衣以外に向けている無味の微笑より遥かに恐ろしいものだった。
俺でさえぞくりと背中が冷たくなったほど。
笑顔に込められた憤りと軽蔑が、鋭い刃みたいに刺さったことだろう。
すっかり怯んだ高橋の様子を思い出し、いっそ哀れにさえ思えてくる。
「すごく怒ってた。涼が羽衣を大事にしてるって言ってたけど、それを言うなら叶人くんもだよね」
「まあ……警察に突き出すってのは本気だろうな。下手したらそれ以上のこともやりかねない」
謝罪に加えて抜かりなく贈りものまで処分させ、その上、脅迫して釘を刺してみせた。
ただの善意ではそこまでできない。
「あいつは……何かやっぱ底が見えねぇ感じがする」
ひどく羽衣に執着している。
愛なのか憎しみなのか分からないが、それだけは間違いない。
最初からずっと、あいつは羽衣のことしか見ていない。
その視線と表向きの意味に、俺が気づかないはずもなかった。
その一方で、俺に見せる表情はどれも目が笑っていないし、たとえ笑顔でも親しみもあたたかみも感じられない。
むしろ敵意さえ覗ける気がしていた。
「はっきり言ってうさんくさいんだよ。羽衣の記憶のことも何か変だし……」
若宮自身への不信感と、羽衣の抜け落ちた記憶の謎。
これがある限り、何を言われようととても素直には信じられない。
もし、高橋が手紙や贈りものだけに留まらず、もっと直接的な行動に出ていたらどうなっていたのだろう。
若宮の“それ以上”の手段を想像するとぞっとした。
そこまでするのは羽衣のためなんだろうか。
それとも、自分のため?
「それは確かに気になるし心配ではあるけど、さすがに叶人くんのこと意識しすぎじゃない?」
「俺が? そんなことねぇよ」
「そこまで疑うのは別の理由があるからなんじゃないのー? たとえば……やきもちとか」
相変わらずの調子で、からかうようににやにやしている日和に「うっせ」と返す。
少なくともストーカーではなかった若宮への誤解は解けたはずなのに、何かが引っかかったまま。
疑惑という意味ではむしろかさんだ。