消して、奪って、きみだけを
「分かった。羽衣が言うなら」
ややあって頷いてくれた彼に思わずほっとしたものの、叶人くんは「でも」と足を止める。
正面に回り込んできた叶人くんの顔に笑みはなく、真剣そのものだった。
「羽衣を傷つける人は誰であれ僕が許さない。次に同じようなことがあったら、この程度で済ます気なんてないから」
ひと目で本気だと分かる眼差しに、怯んでしまったわたしは圧倒されていた。
彼が高橋くんに放った言葉は脅迫でも何でもなく、断罪の宣告だったんだ。
叶人くんを信じると決めたそばから、出端を挫かれたようで肌が寒くなった。
これが嘘じゃないのなら、彼の根底にあるものはいったい……?
(そういえば、わたし……叶人くんのことよく知らない)
もともとそうだったのか、記憶がなくなったせいなのか、いずれにしても彼について言えることはほとんどない。
幼なじみであり、初恋の相手。
そんな彼はどんな人だったんだろう。
「────ねぇ、叶人くんって……これまでどうしてたの?」
再び歩き出すと、意を決して尋ねた。
ただの世間話みたいなものなのに、どうしてか探っているみたいな緊張感が芽生える。
「変わらず、かな。あれから結局、親族とも折り合いがつかない感じだったから、いまもずっと……」
何だか曖昧なもの言いで、答えづらそうに口ごもっていた。
待ってみてもその先に言葉が続けられる気配はない。
まるで上書きするみたいに、わたしに柔らかく笑いかける。
「色々あったけど、だからこそ羽衣とまた会えたのかな。耐えて、乗り越えたご褒美?」
冗談めかした言い方だったけれど、その笑顔がむしろわたしには痛々しく刺さった。
“色々”に何が含まれているのか、きっと以前のわたしなら覚えていたはずだ。
何があったんだろう。
離れ離れになる前も、なってからも、わたしたちに何が……?
あの頃の転校も今回の転校も、叶人くんの意思によるものだったんだろうか。
それこそ色々なことやものを諦めてきたんじゃないだろうか。
そう考えるとたまらなくなる。
たとえば家の都合で何度も転校を繰り返していたなら、慣れない場所に放り込まれて、ようやく慣れたと思ったら否応なしに引き離されて、また────。
彼が他人に見せる、人あたりのよさと馴れ合わない微笑にも納得がいってしまう。
最初から期待していないし、信じていないんだ。
どうせ失うと分かっているから、諦めてはじめから距離を置いている。
「叶人くんは……またいなくなっちゃうの?」
思うだけに留めたつもりが、気づけば口をついていた。
「え……?」