消して、奪って、きみだけを

 はっとしたときにはもう手遅れで、彼は心底驚いたように戸惑いをあらわにしている。
 そんなに深い意味はなかったけれど、空気が重たげに張り詰めた。

「ご、ごめん。ただ、また遠くないうちに転校していっちゃうんじゃないかって不安で……」

「……ああ、なんだ。そういうことか」

 気を緩めた様子の彼にいつもの微笑みが戻る。

「それなら大丈夫だよ、今回の転校は僕の意思だし。どうしてもこの学校へ来たかったんだ」

「どうして?」

「羽衣がいるから」

 即答だった。
 驚きに明け暮れると、すっかり普段通りの叶人くんがうれしそうに言葉を繋ぐ。

「僕はずっと、きみに会うために生きてきたんだよ。もう一度会うために」

 どくん、と心臓が鳴る。

 耐えて、乗り越えた────彼の口にしたそんな言葉が重みを増す。
 わたしに会うために?

「高校生になってからずっと捜してたんだ。それで、たまたまこの学校に通ってた知り合いから羽衣のことを聞いて、ここに来たいと思った」

「そう、だったの……?」

「でも、転校って本人の意思だけで自由に決められるものじゃないんだ。だから、条件が整うまで待ってた。待って、待って、待って……ようやくこの学校が現実的な候補に残ってくれて、こうして羽衣と会えた。あの頃みたいに、同じ学校に通えるようになった」

 滔々(とうとう)と語った叶人くんの表情は恍惚(こうこつ)としてさえいて、心がざわめいた。

『……じゃあ、そもそも再会って偶然か?』

 いつか涼が投げかけた疑問に、いま答えが返ってきた。

 偶然じゃない。
 それも、かなり用意周到な必然。

 自力で捜し出した上で狙ってのことなら、言葉以上に忍耐強く待ちわびていたのだろう。
 そしてついに機が熟し、満を持しての再会を果たした。

 執念深い、という言葉まで自ずと蘇ってきて、図らずもぞくりと嫌な寒気を覚える。
 叶人くんはそうまでして、あの頃の続きを望んでいたのだろうか。

「どうして、そこまで……?」

 動揺を隠せないまま、半ば怯みながら尋ねる。
 叶人くんはいっそう甘やかに笑みを深めた。

「そんなの、答えはひとつしかないでしょ? 大好きな人に会うためだよ」
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