消して、奪って、きみだけを
その表情があまりにも優しいから、声色があまりにも甘いから、たったいま胸の内にはびこっていた違和感や警戒心が飛んでしまう。
どき、と跳ねた心臓は正直だった。
頬が熱を帯びていくのに抗えないまま彼を見つめてしまうと、ふわりと手を取られる。
「あの頃からずっと……僕は羽衣のことが好きだった」
優しく握った手を自身の頬まで運ぶと、くるりと内を向けて添える。
頬に触れたわたしの手を、その上から心地よさそうに彼の手が包み込んだ。
それなのに、いまばかりは寂しげにも見えて、ますます振りほどけない。
「初恋だった。ひとりぼっちだった僕には羽衣しかいなくて……あの頃も、いまも」
てのひらから伝わる体温はあたたかいのに、何だか冷たくも感じられる。
触れている間だけは、氷みたいな孤独感を溶かしてあげられる気がした。
ややあって、叶人くんが笑う。
「……やっと、羽衣に伝えられた」
それは温度のないものでも、ただ甘いものでもなく、いつになく無邪気でうれしそうな笑顔だった。
(あ……)
果てしない記憶の海に沈んだはずの、あの頃の彼の笑顔と重なって見えた。
◇
『返事はすぐじゃなくて大丈夫だよ。覚えてないこともあるだろうし……羽衣を困らせることだけは、絶対にしたくないから』
それから数日が経った。
彼のあの笑顔とまっすぐな言葉が焼きついて離れず、ことあるごとに蘇ってはわたしの心を揺らしていく。
「羽衣、何かあった?」
ついぼんやりとしてしまっていたものの、そう問いかけられて我に返る。
前の席から身体ごと振り向いた日和が、身を乗り出すようにして顔を覗き込んできた。
「……えっ?」
「ほら、またぼーっとして。ストーカー事件が終わったと思ったら今度はなに? どうしたの?」
「な、何でもないよ!」
意思とは関係なく、鼓動が加速していく。
思い出すと頬まで熱くなってきて、じっと見つめてくる日和や涼の視線から逃れようと慌ててうつむいた。
「絶対何でもなくないだろ」
「その反応……もしかして、叶人くんと何かあった?」
声だけでにやりと笑う日和の顔が目に浮かんだ。
あっけなく図星を指され、逃げ場を失ったわたしはもう観念するほかなかった。
「じ、実は……その、告白されたの。あの頃から……って」
あまりに照れくさくて声が小さくなる。
対して日和は大きく息をのみ、いっそう笑みを深めて色めき立った。
「やっぱり! ついに言われたんだ!」
それほど驚いた様子もなく、はしゃぐように足をばたばたさせる。
一方で涼はどこか険しい表情になり、何か言いたげながら口をつぐんでいた。
完全に華やいだ雰囲気で盛り上がっている日和に押されてしまいそうで、わたしはふたりに目をやりながら「でも」と声を絞り出す。
「ちょっと、気になってることがあって……」