消して、奪って、きみだけを
(……羽衣は優しいからなぁ)
とことん身勝手な彼にも情けをかけるなんて。
それは羽衣のいいところだけれど、同時に危うさでもある。
だから、僕がそばで守らないと。
(それより……)
教室の扉越しに聞こえてくる会話に、自ずと笑みも消える。
羽衣に余計なことを吹き込むあのふたりの方がいまは問題だ。
そう思ったとき、手の中でスマホが震えた。
【おい、どうしてくれんの? 無視してないで返信しろよ】
【何とかしてくれよ!】
深く息をつき、呆れたように目を伏せる。
もう用済みなのに、いつまで夢を見て喚き散らしているんだろう。
「うるさいなぁ、どいつもこいつも……」
淡々と画面を操作し、高橋とのやり取りすべてを削除しておく。
さらにはアカウントごとブロックした。
SNS上でしか繋がっていなかったため、向こうは相手が誰なのかすら分からないだろう。
そんな見ず知らずの“友だち”の助言を鵜呑みにして、倫理を侵すような頭の悪さだから、こうして利用されても気づかないのだ。
身から出た錆でしかないし、僕に八つ当たりするのもお門違いというもの。
(さて、どうしようかな)
わずかに振り向き、教室の中を窺う。
あのふたりは高橋よりも羽衣に近く、なかなか鋭いから厄介だ。
「残念だなぁ、仲良くしたかったのに。……なんて」
邪魔をするなら、僕から奪うなら、もう誰であろうと容赦しない。
最悪の形で終わらせてあげる────。
◇
「……い、羽衣ってば」
目の前で手を振られ、はたと我に返ると憂い顔の日和と目が合った。
柔らかい朝の空気が肌に触れ、流れるような交通音が耳につく。
バスを降りて学校までの道を今日は3人で歩いているのだった。
「またぼーっとして。大丈夫?」
「昨日もあいつと帰ってたよな。また何か言われたのか?」
涼までもが日和に続き、慌てて笑ってみせる。
「だ、大丈夫だよ。ただいつも通り話しながら帰っただけ。わたしが答えを出すまでは、本当に待ち続けてくれるんだと思う」
わたしを困らせたくない、と言ってくれた通り、あの告白の話に触れることもなかった。
急かすつもりも強引に迫るつもりもなく、本当にわたしの心を優先してくれている。
そう言ったとき、なぜかふたりは顔を見合わせた。
訝しげに日和が眉をひそめる。
「えっとー……何の話?」
「えっ? こ、告白のことじゃないの?」
昨日の放課後、ふたりにそのことを打ち明けたから、てっきりそれについての進展を気にしてくれているのだと思ったのに。