消して、奪って、きみだけを
だけど、涼と日和は再び顔を見合わせるとますます曇った表情になる。
困惑と怪訝を体現していた。
「いや、それよりもっと重要なことがあるだろ。いくらおまえが信じないってもさすがに無防備すぎるぞ」
「そうよ、忘れたの? 転校の話も叶人くんの執念深さを裏づけるようなものだったじゃん。もちろん、悪い意味とは限らないんだけど……」
「ストーカーとか高橋の話にもまったくの無関係じゃないだろうから気をつけろ、って意味で昨日は話してたんだけど」
転校はともかく、まったく無関係じゃない、ってどういうことだろう。
叶人くんと、という意味だろうか。
「でもそれは高橋くんの仕業で、叶人くんが助けてくれたんじゃ……」
わたしもまた妙な感覚を覚えながら眉を寄せる。
少なくともストーカーの件はそういう着地で解決したはずだ。
「そもそも……昨日、そんな話したっけ?」
思い当たらなくて首を傾げてしまう。
叶人くんに告白されたという話はしたけれど、ストーカーだとか高橋くんがどうだとか、そんなことを話した覚えはなかった。
「……羽衣、ちょっとなに言ってんの? 話したじゃん! タイミングがよすぎるとか、高橋の“友だち”が変だとか」
「え?」
訴えかけるみたいに言う日和だけれど、記憶をたどるまでもなくてただ戸惑ってしまう。
日和こそ何を言っているんだろう。
冗談かもしくはからかっているのかと思って、つい涼の方を窺った。
だけど、彼もまた日和と同じように怪訝な表情を浮かべている。
真剣さを測るように覗く瞳が揺れていた。
「……また、だ。これ前と同じだよな? 羽衣の記憶が抜け落ちてるってことだろ」
誰にともなく確かめるように彼が言う。
その言葉にぞくりと背中が凍えた。
「わたしの記憶が……」
「だって、覚えてないってことだよな? 俺と日和が覚えてる以上、その話をしたことは確かなのに」
瞬きも忘れるほどの衝撃を受けて固まってしまう。
確かにわたしは以前にも、重く抱え続けてきた罪悪感や叶人くんとの過去を唐突に忘れてしまったことがある。
今回もそれと同じように記憶が抜け落ちたんだ。
ふたりと話が噛み合わなかったのはそのせい。
自分ではまったく自覚もなくて、知らないうちに忘れてしまっていた。
そのことが恐ろしくて、同時に不安が込み上げてくる。
これはいったいどういうことなんだろう……?