消して、奪って、きみだけを
「本当に大丈夫? 涼のばか力で吹っ飛ばされて骨折しちゃったんじゃない?」
「ばか、そんな勢いでぶつかってねぇよ」
相変わらずのふたりのやり取りを耳に、彼女の様子を窺った。
なぜかその視線が一瞬わたしに向けられ、それからまたうつむいてしまう。
艶やかな長い髪がその白い頬を覆った。
「……平気。気にしないで」
もう一度繰り返すものの、どうしてか立ち尽くしたまま。
何となく、先に行くよう促されている感じがした。
同じことを感じ取ったのか、涼も「ごめんな」ともう一度言い残すと歩き出す。
わたしと日和もあとに続いた。
(何だったんだろう……?)
ほんの一瞬、わたしに目をやったあの子の眼差しは、思いちがいでなければ氷のように冷たく鋭かった。
思わず振り向くものの、彼女の姿は既に見当たらない。
だけど、自ずと萎縮してしまった。
まだどこかからあの視線を突き刺されているような気がして。
◇
予鈴が鳴る前、教室に隣接するベランダへ出た。
晴れた朝の穏やかな光が注いで心地いい。
廊下の突き当たりからはバルコニーへも出られるし、ちょっとした息抜きに困らない。
どちらも気分転換にちょうどよくて、密かに気に入っていた。
色々な感情でもつれた心と頭の中を解きほぐそうと息をつく。
空っぽになった一瞬、薄い青空を飛ぶ鳥が目に入った。
「あ……」
記憶を閉じ込めた箱に絡まっていた糸が、ふいに1本ほどけていく。
────出会った頃の彼も、いまみたいに転校してきたのだった。
だけど、いまとはちがって周囲となかなか馴染めない様子だった。
たぶん、彼が笑わないから。
何も言わないから。
当時からその綺麗な顔立ちは人目を引いたけれど、周囲が向けるどの関心も彼の心には届かなかった。
お調子者だったクラスの男の子が話しかけても、頷くか首を横に振るだけ。
それでいて、遊んでいるみんなの輪をたまにじっと見つめていた。
宝石みたいなのに、光が射さない瞳。
何を映しているのか分からなくて、だんだんみんな距離を置くようになった。
何を考えているのか分からない────そう怖がられ、不気味がられ、孤立していったのだ。
観察と憶測で噂が飛び交い、その噂が噂を呼ぶようにして叶人くんはひとりになった。
そんなときだった。
わたしが彼と話すようになったのは。