消して、奪って、きみだけを
その声も初めて聞いたような気がして、口を開いてくれたことにびっくりしたのとうれしいのとで一瞬ほうけてしまう。
『こわくなんてないよ。本当は話してみたいと思ってた。どんな子なんだろうって』
ひとり歩きした噂と、幻想的でミステリアスな叶人くんの雰囲気に遠慮していただけだ。
怖いだとか不気味だなんて噂は、やっぱりただの噂に過ぎなかった。
『やさしいんだね、叶人くん。こんなふうに小鳥のお墓を作ろうとしてたし』
そう言って笑いかけるものの、彼は逃げるように目を逸らしてしまう。
うつむいた叶人くんの髪を緩やかな風が揺らした。
『……ここ、僕のひみつの場所だったんだ。いつも逃げてきてた』
きゅ、とその言葉に胸が締めつけられる。
ただ孤立していたばかりじゃなく、噂の的として好奇の目に晒され続けている彼にとって、ひとけのないこの裏庭は避難場所だったのかもしれない。
『この子は、僕が今朝来たときにはもう……。僕みたいに逃げてきて、それでも助からなかったのかな』
小鳥のお墓を見つめながら言う叶人くんの声は、溶けて消えてしまいそうだった。
たまらず眉を寄せ、わたしもお墓に目を戻す。
『……でも最後は救われたはずだよ、叶人くんのおかげで』
『僕の?』
『うん、お墓を作ってあげようとしてたでしょ? だからこの子は迷わず天国に行けたと思う』
そう言ったわたしを、彼はしばらくじっと見つめていた。
揺れる綺麗な瞳がわたしをどう映しているのかはやっぱり分からなかったけれど、怖いだなんて拒絶もやっぱり一瞬たりとも湧いてこなかった。
『……ありがとう』
ややあって叶人くんは笑った。
寂しさの影は残っていたけれど、初めて見る笑顔にまた、びっくりしたようなうれしいようなくすぐったい気持ちになる。
お礼を言われるようなことをした覚えはなかったものの、その笑顔は鮮やかで印象的だった。
叶人くんってこんなふうに笑うんだ。
そう知れたことがやっぱりうれしかった。
────そんな出来事をきっかけに、わたしたちは話すようになったのだった。
いまより分かりやすく誰にも心を開かなかった彼だけれど、あれ以降、わたしにだけは話してくれたし笑ってくれた。
(覚えてる、わたし……)
彼との過去はすべて忘れてしまったとばかり思っていた。
だけど、いまの記憶は“思い出した”というよりも、頭の奥底に沈んで見えなくなっていたものがふいに表層へ浮かび上がってきた感覚に近い。
消えたわけでも忘れたわけでもなく、記憶が深く眠ってしまったみたいだった。
きっかけさえあれば呼び起こせるのかもしれない。