消して、奪って、きみだけを

 そんなことを考えていると、無邪気に笑い合う幼いわたしたちが脳裏に浮かんだ。

 あの頃の叶人くんはひとりでいるか、わたしといるかのどちらかだった。

 いまは周りに対する言動も随分と軟化(なんか)したとはいえ、本質的には変わっていないような気がする。

 涼たちの言っていたわたしへの“特別”は、気持ちばかりが理由じゃないのかもしれない。

(単に心細いのかも)

 知らない環境へ来て、きっと頼れるのは昔馴染みのわたししかいないから。

 あの頃と同じだ。
 転校してきて孤立気味だった彼と仲良くなって、一緒にいる時間が増えていった────。

 それでも、最後にはわたしが何かをしてしまったんだ。
 謝らなければならないような、あれほど苦しい何か。

 そればかりは記憶の海に潜ってみても探り当てられなかった。

 過去の一切を忘却(ぼうきゃく)してしまったわけではないけれど、彼への罪は、罪悪感の正体は、やっぱり穴が空いたみたいに抜け落ちてしまっていた。

 そのとき、からからと背後で窓の開く音がした。

「ここにいたんだ」

 はっと我に返って振り向くと、ちょうど叶人くんが出てくるところだった。
 カーテンが幕になって教室と隔たれ、何だか静謐(せいひつ)な空間に感じられる。

「おはよう」

「……おはよう、叶人くん」

 過去の断片が蘇ったからか、向けられる笑顔が昨日よりも懐かしい気がする。

 あの頃滲んでいた寂しさの影や悲しみの色は、薄くなっているけれど消えてはいない。
 そんな笑顔の裏に器用に隠せるようになったのだと思う。

「ねぇ、今日デートしない?」

 フェンスに腕を乗せたまま、おもむろに彼が言った。
 どき、と心臓が跳ねる。

「で、デート?」

「そう。まあ、そんな大げさなものじゃなくて一緒に歩きたいだけなんだけど……。久しぶりにこっちに戻ってきたし、羽衣といると本当にあの頃の延長みたいで懐かしいんだ」

 しばらくこの街を離れていた彼にとって、特にわたしの家付近はノスタルジックな欠片にあふれているのだろう。

 ストーカーから守るために何度か送り迎えまでしてくれたけれど、あのときはその目的ばかりを優先していたから、思い出に浸る余裕もなかった。

「うん、それなら……“デート”しよう」

 小さく笑って頷くと、叶人くんはうれしそうに瞳をきらめかせる。
 記憶の中の宝石みたいなそれと重なってわたしも懐かしくなった。

 彼はあの頃と変わっていないように思えて、何だかほっとした。



     ◇



 放課後、帰路についたわたしたちはバスを降りる。

 近所の公園、小さな神社、いまはもう潰れてしまった駄菓子屋のシャッター────あの頃をたどるように巡り、郷愁(きょうしゅう)に浸った。

「懐かしいな……。楽しかったよね」

「わたしたち、本当にずっと一緒にいたね」
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