消して、奪って、きみだけを
「どういたしまして。……ね、それ鞄につけたら?」
しなやかに指し示された自分の鞄を見やる。
そこにはいつか日和とお揃いで買った猫のマスコットが揺れていた。
「あ、うん。そうする」
「待って」
猫の隣につけておこうと思ったのだけれど、叶人くんに制される。
「僕のあげたものが真っ先に目に入った方がうれしいな……。そっちは部屋にでも飾っておいたら? 汚れたり落としたりしたら悲しいでしょ」
「それは……でも、叶人くんがくれたものも同じだよ」
「僕のは気にしないで。そうなったらまたあげる。何度でも、いくつでも羽衣のために選ぶよ」
ふわりと優しく微笑みかけられ、瞬きも忘れた。
「だけど……」
触れた猫の手触りに指先が固まってしまう。
これは入学当初、初めて日和とふたりで遊びにいった日に色違いで買ったものだった。
『一緒に鞄につけようよ! お揃いで』
その言葉を破って、勝手に外して大丈夫だろうか。
「……そっか、そうだよね。無茶言ってごめんね」
「あ……」
悲しげに眉を下げる彼を見たら、ちくりとまた棘が深く刺さった。
(外しても、部屋に飾るなら大切にしてることに変わりはないよね)
そう思い直し、指先に絡みついた迷いと躊躇をどうにか振り切る。
ほかでもないわたしが叶人くんにそんな顔をさせたくない。
期待も裏切りたくないし、傷つけたくもない。
「ううん、無茶じゃないよ。わたしこそごめん」
「羽衣……」
鞄から猫のマスコットを外し、叶人くんからもらったマスコットをつけておく。
それを見た彼はうれしそうに、満足そうに笑みを深めた。
────慣れない環境で頼れるのがわたししかいないなら、彼の心細さに寄り添いたいという使命感が芽生えていた。
それと同時に、現在進行形の罪悪感と過去に閉じ込めた罪悪感に後ろ髪を掴まれている。
わたしが何かしてしまったのなら、罪滅ぼしをするべきだ。
やっぱり、わたしにできることならなるべく叶人くんの望みを叶えたい。
それで彼の不安が消え、わたしの罪も軽くなるのなら……。
◇
翌朝、席につくと日和が「おはよー」とあくびをしながら歩み寄ってくる。
「あれ……これどうしたの? 猫ちゃんは?」
空いていたわたしの前の席に腰を下ろすと、鞄を指して首を傾げた。
そこにあるのはうさぎのマスコットだけ。
猫の方は叶人くんに言われた通り、外して部屋に飾っておくことにした。
「あ、これは叶人くんがくれたんだ」
そう言った瞬間、日和の表情が険しくなった。
眉を寄せたままかろうじて笑みを保とうとする口元が引きつる。
「なに、それ……? あたしより叶人くんが大事ってこと?」