消して、奪って、きみだけを
「えっ、ちがうよ。そうじゃなくて────」
「もうあたしのことなんてどうでもいいんでしょ? 声かけてもいつも“叶人くん”、“叶人くん”って……。このマスコットと同じ」
自嘲するように笑った日和が立ち上がった。
非難の眼差しを突き刺される。
「叶人くんに買ってもらうのもそれを鞄につけるのも羽衣の自由だよ。でも、わざわざあたしとお揃いの方を外す必要ある?」
どきりと冷えた心臓がざらつき、返す言葉が見つからない。
感情をあらわにする日和に気圧されてしまう。
「こっちは散々あんたのこと心配してたのに……。もういい、好きにして」
「ま、待って……!」
がたん、と慌てて立ち上がると、背を向けた日和を追いかけようとした。
けれど、踏み出した瞬間に後ろから手首を掴まれる。
振り向くと、そこにいたのは叶人くんだった。
沈痛な面持ちで首を横に振る。
「叶人くん……」
「いまはそっとしておいた方がいいと思う」
そう言われ、思わず張り詰めていた息をつくと手首も解放された。
驚きと動揺で心臓が激しく打っている。
知らなかった。気づかなかった。
日和がそれほどフラストレーションを溜め込んでいたことも、気を遣わせてしまっていたことも。
日和は、わたしのことにはいつも気づいてくれていたのに。
「ごめんね、羽衣。そんなつもりじゃなかったのに悪いことしちゃったな」
「叶人くんのせいじゃないよ!」
わたしがずっと日和に甘えていただけだ。
必要なときだけ頼り、そうじゃないときはないがしろにしてしまい、自分の都合ばかり優先していた。
彼女なら分かってくれる、許してくれる、と心のどこかで思っていたから寄りかかりすぎてしまった。
「あとでちゃんと謝らなきゃ」
叶人くんとの時間を大切にすることと、日和との関係をぞんざいにすることはイコールじゃない。
どちらの方がより大事だとか線引きしているつもりもないし、もちろん優先順位もない。
日和だってわたしの友だちだ。
その誤解だけはきちんと解いておきたかった。
◆
昇降口で靴を履き替え、リュックを背負い直す。
羽衣はもう来ているだろうか。
今日もその隣にはまた当たり前のようにあいつがいるんだろうか。
ストーカーの件も表向きは一旦解決したわけだし、いつまでも一緒にいる理由だってもうないだろうに。
ただでさえ信用ならないあいつの危うさを、どう説明すれば伝わるんだろう。
(いままで……当たり前のように一緒にいたのは俺だったんだけどな)
ついそんな女々しいことを考え、かぶりを振った。
やめよう。それこそ羽衣にとっては大した理由なんてなかったはずだ。
「……あの」
廊下へ出たとき、ふいに呼び止められた。
聞き慣れない声に顔を上げると、綺麗に切り揃えられた長い髪をそなえる女子生徒が立っている。
「ん?」
「わたしのこと、覚えてる?」