消して、奪って、きみだけを
●第3章 歪曲プリズム
思わぬ言葉に、まじまじと相手を見つめてしまった。
言われてみれば見覚えがあるような気もするが、いったい誰だっただろう。
「あー……っと、悪い。ぱっと出てこねぇや」
適当に合わせたって仕方がないので、早々に白状した。
困ったように苦く笑っても相手は表情を変えない。
「そう……。だと思った。校外学習のとき、あなたに助けてもらったんだけど」
その決定的なワードを聞いた瞬間、その日の出来事が鮮やかに蘇ってきた。
「あ! おまえか、あのときの」
校外学習とは名ばかりの遠足、ひいては親睦のためのレクリエーションだった。
クラス合同での自由時間が終わってバスへ移動するとき、たまたま俺の前を歩いていたのが彼女。
よく見ると右足を引きずるようにしていて、気になって声をかけたんだった。
『大丈夫か? その足、どうした?』
『……平気』
足首を痛めているようなのに、平静を装って無理に歩いていこうとする。
強がっているのは明白で放っておけなかった。
『嘘つけ。どっかで捻ったんだろ。悪化するとあれだし掴まれよ』
差し出された手と俺を見比べ、心底驚いたように目を見張っていた。
妙な反応で固まってしまってこっちまで困惑したのを思い出す。
『涼? どうかした?』
『悪い、先行っててくれ』
前を歩いていて振り返った羽衣と日和にそう言うと、腕を貸して隣のクラスのバスまで送り届けたのだった。
「……で、俺に何か用?」
そんな出来事はもう数か月も前の話で、それきり関わることもなかった。
そのせいですっかり忘れかけていたし、そもそも名前すら知らない。
いまさらどうしたのだろうかと戸惑っていると、ふと伸ばされた手に腕を掴まれた。
「おい……」
「また助けてくれない?」
「え?」
またしても予想外の言葉に困惑していると、うつむくように目を落とす。
その視線をたどったとき、彼女の足が目に留まった。
「おまえ、それ」
左の足首に湿布とサポーターが巻かれていて、何とも痛々しい様子だ。
「また怪我してんの? 今度は左足かよ」
「あなたのせいだよ」
「俺の……?」
まるで心当たりがなくて、戸惑いのままに目を瞬かせる。
そう言う割に恨みがましい眼差しでも声色でもなく、ただまっすぐに見つめ返してきた。
「この間、わたしとぶつかったでしょう。そのときに捻ったみたい」
「……え。あれも、おまえだったのか」
まったく気がつかなかった。
この前の朝、偶然ぶつかってしまった女子生徒は彼女だったんだ。
苦い気持ちになる。
あの衝撃で捻挫でもしてしまったのだろうか。
「ごめんな。まさかそんな怪我させてたなんて、俺知らなくて────」
「そう思うなら手を貸して。あのときみたいに」