消して、奪って、きみだけを

 冷えた両手を握り締め、懸命に言葉を紡ぐ。

「でも……日和より叶人くんが優先だとか、日和のことはどうでもいいだなんて思ってない。比べるものでもないけど、日和だって大事な友だちだよ」

 それが心からの言葉だった。
 どちらか、じゃなくて、どちらもわたしにとって大切で必要な存在。もちろん、涼だってそう。

 いくら叶人くんに心を痛めていたって、わたしの行動は浅慮(せんりょ)なものだった。
 日和が自分との時間を上書きされたように感じて腹を立てるのも無理ない。

 沈黙が重たくて、針のむしろに立たされているような心地がした。

 やがて日和が力を抜いたようにやわく笑う。

「……あたしも、ごめん。マスコットくらいで不機嫌になったりして子どもっぽかったよね」

 肩をすくめる彼女にふるふると首を横に振った。
 笑ってくれたことにほっとして、末端(まったん)から身体に感覚が戻り始める。

「でも、いいよ。別に無理してつけなくても。羽衣の言いたいことは分かったから」

 あれ、と思った。
 いつも通りの声色、いつも通りの何気ない表情なのに、肌に触れる空気がいつもより硬質(こうしつ)だ。

「ごめんね、本当に……」

「もういいってば」

 日和は笑う。
 だけど、本当に誤解が解けきったのか、完全に仲直りできたのか何だか確信が持てない。

 表面上は元通りなのに妙に手応えのようなものがなくて、細くたなびいた不安が胸の内で滞留(たいりゅう)した。

「何だよ、珍しく喧嘩でもしたのか?」

 からかうように言いながら歩み寄ってきたのは涼だった。
 硬い空気をほぐすみたいな言い方に、ひっそりと安堵してしまう。

「喧嘩っていうか、わたしが一方的に嫌な思いさせちゃったの」

「ちがうちがう。あたしが勝手に爆発して八つ当たりしただけ。大したことじゃないよ」

 眉を下げて笑ってみせた日和は「じゃあ」と鞄を漁りながら続ける。

「あたし、ちょっと飲みもの買ってくるから」

 財布を手に席を立ち、そのまま教室を出ていってしまった。
 マイペースなこと自体はいつも通りだけれど、安心して気を抜いていいものかいまは少しだけ迷ってしまう。

「……何があったんだよ。仲直りできなかったのか?」

「ううん……一応、できたと思うんだけど」

 妙な距離感というか、間に線を引かれたような感覚が拭えなかった。

 いままで気づかなかったものが可視化されただけかもしれないけれど。
 踏み越えたら、関係か自分が壊れてしまうのかな。

「それより、今日遅かったね。寝坊でもしたの?」

 これ以上続けていると、誰との間にもその線を探ってしまいそうで話題を変える。

 いつも涼がそうするみたいにからかってみるも、彼は笑うでも反論するでもなく「あー」と頭を掻いた。

「まあ、そんなとこだ。ちょっとしばらくは寝坊が続くかも」

「え? どういうこと?」
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