消して、奪って、きみだけを

 言葉を探すように視線をさまよわせた涼は、そんなおかしなことを言った。
 困惑するわたしに苦々しく笑う。

「気にすんな、大したことじゃねぇから」

 日和と同じことを口にした彼に引っかかりを覚えるも、尋ねる前にチャイムが鳴って阻まれる。

 きびすを返した背を見つめていると、何だか足元に線が浮かび上がってくるような気がした。



 昼休みになり、お弁当を取り出す。
 叶人くんと涼と、それから日和もいつもと同じように加わってくれて、ようやく随分と安心することができた。

「やっとお昼だー。お腹すいた」

「日和、さっきまでお菓子食べてなかった?」

「あ、バレてた? あれは別腹だからねー。みんなにもあげるよ」

 傷つけてしまったという事実は消えないけれど、勇気を出して謝ってよかった。
 誤解が解けて本当によかった。

 気にかけるようにわたしに目をやる叶人くんに頷いてみせると、彼もほっとしたように表情を綻ばせる。

「……あ」

 椅子に腰を下ろし、ペットボトルのお茶に口をつけた涼がふいに声を上げた。
 スマホ片手に何やら難しい顔をしている。

 おもむろに立ち上がったかと思うと素早くキャップを閉め、コンビニで買った昼食が入っているビニール袋を掴んだ。

「どうかしたの?」

「悪ぃ、ちょっと今日別のとこで食ってくる」

「えっ、涼?」

 それだけ言うと慌ただしく教室を出ていってしまい、残されたわたしたちは困惑したまま顔を見合わせた。



     ◆



 購買に寄ってから階段を駆け上がり、隣のクラスであるB組の教室を覗いた。

 窓際の一番後ろの席から、俺に気づいた立原が小さく手を振ってくる。
 息を整えながらその席へ向かった。

「来てくれたんだ」

「当たり前だろ。いまはこっち優先だ」

 なぜか意外そうに言われ、内心首を傾げてしまう。
 捻挫のせいで階段の上り下りも辛いのに昼飯がないと来たら、俺が足になるのは当然の役目だろう。

 空いていた前の席を勝手に拝借(はいしゃく)して座ると、立原の机の上に「ん」と買ってきたものを置いた。

「ご希望のメロンパンとレモンティー。こんなんで足りるか? つか、甘くね?」

「ありがとう。篠崎くんも甘いもの好きでしょう」

 財布を取り出し、律儀(りちぎ)にも代金ぴったりの小銭を差し出しながら言われる。
 いくらか覚えているほど好んで毎日食べているらしい。

「いや、別にそうでもねぇけど」

「本当に? 苺のワッフルとか、よく食べてるんじゃないですか」

 同学年のくせにたまに敬語が混ざるのは、どうやら立原の癖のようだった。

 それより、ピンポイントで言い当てられたことに驚いてしまう。

「何で知ってんの?」

「バス停近くのコンビニで……何度か見かけたことがあって。あそこは通り道だからわたしもよく行くの」
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