消して、奪って、きみだけを
俺は当然まったく意識していなかったから気づく余地もなかった。
しかし、立原の方はもしかすると、あの校外学習以降も俺の存在を気にしていたのかもしれない。
レモンティーのキャップを捻るところを何となく目で追った。
目を伏せると余計に憂いを帯びて、一瞬泣いているように見える。
何気なくあたりを見回すものの、クラスメートたちはそれぞれに談笑していて立原は自然とひとりだった。
しかし、結界でも張っているのかと思うくらい凜としていて、ミステリアスと言うべきか不思議な雰囲気がある。
「……なあ、クラスに友だちは?」
気になって尋ねると、目を瞬かせた立原があのまっすぐな眼差しをぶつけてきた。
「嫌な意味に聞こえたなら悪い。そうじゃなくてさ、その足のこととか頼れるやつはいねぇのかなって」
「え?」
「ほら、俺じゃクラスもちがうし色々煩わしいだろ。そりゃ俺のせいなんだから、朝も言った通りできる限りは支えるけど」
その言葉に嘘はない。
その上で現実的なネックを示したつもりだったが、立原は表情を変えなかった。
「わたしも最初に言った通り、篠崎くん以外に頼れる人がいないの」
「いや、けど……」
「友だちなんていないよ。ほかに誰も信じられない。怪我の原因はあなただけど、あなたに怒ってるわけでもないです。ただ、篠崎くんだからそうして欲しい」
予想外の答えに返す言葉を失い、半ば気圧されてしまう。
まっすぐすぎて圧さえ感じる双眸を捉えてつい眉を寄せた。
「何だそれ……」
思うだけに留めたつもりが、率直に感じたことが口をつく。
俺の感覚では、立原と関わったのなんてあの校外学習でのほんの短い時間だけ。
当たり前ながら立原のことも全然知らない。
今朝までその名前すら知らなかった。
立原からしたって同じはずなのに、なぜここまで俺に信を置けるのかが理解できなかった。
「……勘だよ」
「何の?」
「わたしには分かる。あの短時間でも、篠崎くんの優しさに触れて裏表がない人だって思った。この人は信用できるって直感的に確信したんです」
そんな大層なことはしていないのに、何だか壮大なストーリーが組み立てられている気がして困ってしまう。
その温度差にはたじろぐものの、立原の言いたいことは何となく理解できた。
「だから、またわたしを手助けして。そばにいてください」
言葉選びのせいか調子が狂う。
終始まじめな表情と純真な眼差しは揺るがず、冗談を言っている気配は微塵もなかった。
それに────“勘”は侮れない。
理屈じゃなく直感的にひとを判断してしまうことはある。
『お手柔らかに』
それが最終的に正しいことだって、きっとある。
小さく息をついた。
立原のまっすぐさを真正面から浴びていると何だか疲弊してしまいそうだが、どのみち俺の答えは変わらない。
「……分かった。治るまでな」