消して、奪って、きみだけを
少なくとも“そばにいる”ことは、怪我をさせた責任を取るという理由がなければ俺にはできない。
そこに特別な意味を持たせることも。
「足のことは本当に悪かったよ。でも、ずっとは無理だ」
いっそここで笑い飛ばしてくれたらよかったのに、立原は静かに息をのんだ。
「どうして」
「現実的にクラスの問題とかもあるし……いや、これは言い訳だよな。俺、自意識過剰だから先に言っとく。俺が望んでないから」
浮ついた予感を否定したくて、普段以上にはっきりと伝えた。
本当に自意識過剰なだけならいい。俺の勘違いなら。
だけど正直、怪我のせいで被る不便を手助けして欲しいだけには、どうしても見えなかった。
よくも悪くも立原の言葉には重みがあったから。
特にいまは心配で色々と気にかかるやつがいるせいで、よそ見なんてしていられない。
「……いいです」
うつむいていた立原は小さくそう言うと顔をもたげる。
それでもやっぱり表情は変わらなかったが、感情がまったく動いていないわけではないということがここまでで分かった。
「じゃあ、それなら……治るまで」
「ああ、それは約束する。何かあったら我慢せず遠慮なく言えよ」
◇
「じゃあ、席が近い人同士で4人グループを作ってください」
生物の授業中、先生のその言葉で教室内がざわめき出した。
近くを見回すと、叶人くんと目が合う。
「一緒だね、羽衣」
そのことに自ずとほっとしながら「うん」と頷く。
残るふたりは、お調子者でクラスのムードメーカー的存在の松田くんと、まじめな優等生という印象の早川くんだった。
それぞれ班員同士で机を寄せて固まると、先生がプリントに目を落としながら淡々と説明を続ける。
「班ごとに条件を変え、種子の発芽と成長を観察する実験をします。これから数回に渡って授業は班行動で進めるのでそのつもりで。最終的にグループでレポートをまとめて発表してもらいます。これがかなり重要だからしっかり集中すること。意味分かるね?」
最後に口調を緩めて笑いを誘うと、何人かが頷いたり顔を見合わせたりしていた。
恐らくその内容が成績に大きく響くということだろう。
「じゃあそれぞれの班のテーマを発表します。プリント配るから、話し合って担当を決めてください」
回されたプリントによると、わたしたちの班のテーマは“塩分濃度が種子の発芽率と根の伸長に与える影響”と書いてあった。
単語が難しくて、どういう内容なのかぴんと来ない。
「塩害実験だな」
「塩害?」
端的に呟いた早川くんに尋ねると、頷いた彼が噛み砕いてくれる。
「簡単に言うと、これは塩分が種の発芽しやすさと根の伸び方にどう影響するかって実験。塩害っていうのは、塩分が植物に与える悪影響のこと」