消して、奪って、きみだけを

 実験の過程を継続的に気にかけ続けなければならないのはどちらも同じだと思うけれど、単純な作業量は前者の方が多い気がする。
 責任の比重もそちらに傾いているように思えた。

「じゃあ、わたしは記録と管理の係をするね。叶人くんは撮影の担当でいい……?」

「もちろん」

「よっしゃ、決定ー」

 叶人くんは快く頷いてくれて、それを受けた松田くんはうれしそうにシャーペンを走らせた。
 プリントにそれぞれの担当を殴り書きしている。

 わたしもそれにならってメモを取り、プリントをファイルに挟んだ。
 ちょうど折よく、先生が口を開く。

「話し合いが済んだら実験室に移動します。さっそく始めるのでみんな準備してね」



 実験室でも班ごとに固まり、机の上に必要なものを揃えた。

 早川くんが濃度のちがう食塩水を作ってくれている間、シャーレに貼るラベルを書こうとペンケースを探る。

 はい、と目の前にペンを差し出され、驚きつつも「ありがとう」と受け取ると叶人くんは微笑んだ。

「いくつ必要?」

「低、中、高塩分となしの4条件で想定してるから4つ。ちなみにそれぞれ濃度は0.5パーセント、1パーセント、2パーセントと0パーセント。そう記録しといて」

 慌ててシャーペンに持ち替え、記録用のレジュメに書き出しておいた。
 ラベルの方にも“低”、“中”、“高”とペンで書くと、叶人くんが空いたスペースを指で示す。

「日付もあった方がいいかも、一応」

「あ、そうだね」

 ラベルを書き終えると4つのシャーレにろ紙を敷き、ピペットで食塩水をそれぞれ垂らして湿らせる。

 あらかじめ用意されていた種の袋を手に取った。
 “ハツカダイコン”と書かれているのを見て松田くんが「ラディッシュだ」と口にする。

「何粒置けばいいかな?」

「10でいいと思う」

「何で10?」

 そう聞き返したのはわたしではなく松田くんで、それに答えたのも早川くんではなく叶人くんだった。

「10だと発芽率を計算しやすいよね」

「ああ、詰まるところレポートも書きやすい」

 なるほど、と呟いた声が松田くんと重なる。
 ふたりの存在を頼もしく思いながら、ろ紙の上に種を均等に並べていった。

 最後に叶人くんがスマホで撮影記録を残したところでチャイムが鳴る。

「じゃあ今日はここまで。きりがついた班から終わって結構です。各班、シャーレは直射日光の当たらないあそこの棚で保管しておいて」

 先生が指し示したのは実験室の窓と反対側にある棚。
 ふたつずつ運ぼうと思ったら、残りのふたつを叶人くんが持ってきてくれた。

「ありがとう、叶人くん」

「ううん、羽衣ひとりが気負う必要ないよ」
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