消して、奪って、きみだけを

 さらりと言われたけれど、そのひとことだけでわたしの自信のなさまで見透かされている気がした。

 そんな後ろ向きの理由でこの係を引き受けたことにも気づいているかもしれない。

「せっかく同じ班になれたんだし遠慮なく頼ってね」

「……十分甘やかされてるのに、いま以上に頼っていいの?」

 どこまでも甘い彼に冗談めかして聞き返すと、それすらすべて包んで覆うような笑みが返ってくる。

「もちろん。僕は羽衣のためなら何だってするよ」



     ◇



 翌日の生物の時間、実験室へ移動するとシャーレの棚を確かめにいった。
 さすがにまだ変化はないかな、と思いつつ目をやって愕然(がくぜん)とする。

「え……」

 シャーレが割れている。
 ひびが入るといったレベルではない。

 ろ紙で底が覆われているから完全には見えないけれど、真っ二つに割れてしまっているのか、シャーレの円形が崩れている。

「どうしたの?」

 一緒に移動してきた日和が不思議そうに声をかけてくる。

「これ、割れちゃってるみたい……」

「え、何これ? 勝手に?」

「たぶん……?」

 ろ紙や種そのものに異変はないのに、シャーレだけが綺麗に割れているのだ。
 もし誰かの手が加わっているとしたら、ろ紙がよれるとか種まで散らばるとかそんな変化があるはず。

 シャーレだけが急に割れてしまうというのも妙な話だけれど、経年劣化や温度変化のせいだと納得するほかないだろう。

 ────結局、叶人くんが先生に伝えてくれて、実験はシャーレを交換してやり直すことになった。

 早川くんや松田くんも知らなかったみたいで、クラス内は少しだけ騒々しくなったものの、偶然という結論に落ち着いた。

 だけど、問題はここからだった。

 生物の授業がない日も管理と記録は続けることになり、わたしと叶人くんは休み時間や放課後に実験室へ足を運んだ。

 そのたびシャーレに異変がないことをしっかりと確かめたけれど、再び授業が始まると────。

「え、また……」

 この間と同じように、シャーレがひとつ割れていた。
 例によってろ紙や種はそのままだから、人為的なものなのか本当に偶然なのか分からない。

「おかしいな。どういうことだろう」

 さすがに叶人くんも怪訝(けげん)そうに眉を寄せていた。
 こうも立て続いては“偶然”とも言いきれなくなってくる気がするけれど……。

「またかよ。桜木、管理大丈夫なの?」

 松田くんがおどけた調子でわたしに言った。
 彼の言う通り、シャーレの管理もわたしの役目だ。

「うん、ごめん……。もっと気をつける」

 こんな調子では実験にすらならなくて、レポートも発表もできない。
 成績に大きく影響するというのに、わたしが班員みんなの足を引っ張ってしまうことになる。

(偶然、だよね?)
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