消して、奪って、きみだけを
だって、動機が分からない。
誰かが割ったとして、その誰かにはいったいどんなメリットがあると言うのだろう。
わたしたちの班のシャーレだけを狙って割る理由なんてない。
それよりも、わたしが棚に戻すときに強く置いてしまって衝撃が加わったとか、そういう理由の方がまだありうる。
いま以上にシャーレの扱いには慎重にならなきゃ。
またしても割れたシャーレを交換して最初からやり直すと、同じように休み時間や放課後に叶人くんと記録作業を行った。
「羽衣、あまり思い詰めないでね。管理係って言っても羽衣ひとりに責任があるわけじゃないんだし」
「うん……」
何だか妙な胸騒ぎがして、言い知れない不安感に肌を削がれていく心地がした。
けれど、叶人くんが同じ班でよかった。
わたしひとりでは責任や重圧に押し潰されていたかもしれない。
────そのとき、ふたりで何度もシャーレを確認した。
底にひびが入っているなんてこともなかったし、今度こそはうまくいくはず。
次の生物の授業の日、早めに移動してシャーレの棚を見にいった。
「え……っ」
確かに割れてはいないものの、今度は別の問題が起きてしまった。
「何だろう、これ。カビかな」
いつの間にか隣に立っていた叶人くんが、わたしたちの班のシャーレを見て呟く。
そのうちのひとつが妙な状態だった。
ふわふわした白い綿のようなものが種の周りにまとわりついているのだ。
きっと、叶人くんの言う通りカビだと思う。
「おいおい、またトラブルかよ。今度はなに?」
遅れて実験室へと来た松田くんが不穏な空気に気づいて呆れたようにそう言った。
シャーレの様子を見て「うわ」と思いきり顔をしかめる。
「何やってんだよ。おまえ、本当にちゃんと管理してんの?」
「ごめん……」
返す言葉もなくて唇を噛み締めたままうつむく。
ここ数回に渡って続いているトラブルは管理不足でしかなく、間違いなくわたしの責任だった。
次第に騒ぎが広がる中、早川くんも棚へ歩み寄ってくる。
例のシャーレには“なし”、つまり濃度0パーセントを示すラベルが貼られている。
それを確かめると露骨に眉をひそめた。
「水を入れすぎたんじゃないのか」
「で、でもみんなで確認しながらやって、最初は問題なかったのに……」
「現にこうなってる以上、それしかないだろ。何度失敗すれば気が済むんだよ。どう責任取ってくれるんだ」
「そうだぞ、管理係だろ? おまえにぜんぶ懸かってるのに」
成績に響く重要な課題ということで、きっと早川くんは普段以上にぴりぴりしているのだと思う。
それに同調する松田くんは、要領の悪いわたしにいらいらしているのだろう。
実際、こうなっているのはすべてわたしのせいだ。
どんなに責められても仕方がない。
「言いすぎだろ」