消して、奪って、きみだけを
萎縮して顔を上げられなくなったとき、そんな鋭い声が重苦しい空気を裂いた。
歩み出てきたのは涼だ。
「おまえらも同じ班のメンバーだろ。誰かひとりに責任押しつけてんなよ。責めたって何の解決もしねぇだろ」
ふいに息が通り、酸素の薄さが和らいだ気がした。
臆せず堂々と庇ってくれた涼を見たら、目の前が揺らいでしまいそうで慌てて唇を噛む。
「……関係ないだろ。ほかの班のやつは黙っててくれないか」
淡々と一蹴した早川くんに涼はなおも食い下がろうとしたものの、その前に叶人くんが動いた。
苛立つ彼の肩に手を置いて言う。
「それなら同じ班の僕から言わせてもらうけど、こうなったのは羽衣の責任じゃないよ」
それからスマホを取り出し、記録として残している写真を彼に見せた。
そこには何の変哲もないシャーレの様子がおさまっている。
「これが昨日の写真。それからいままでシャーレには近づいても触ってもいないし、きっとたまたま運悪くこうなっただけだ」
「……たまたま? 3回も続く偶然があるかよ」
松田くんが吐き捨てるように言い放つも叶人くんは怯まない。
「じゃあ、まさか羽衣が仕組んだって言いたいの?」
「それは……」
「それこそありえないよ。羽衣がそんなことして何になるの? 第一、羽衣はそんな子じゃない」
それ以上の反論は尽きたのか、松田くんは口をつぐみ、早川くんもため息をつくに留まった。
わたしに向き直った叶人くんはにっこりと優しく微笑みかけてくれる。
「大丈夫、実験はもう一度やり直せばいいだけ。羽衣は何も気に病む必要なんてないよ」
「……うん、ありがとう」
さすがにもう“偶然”で片付けるには苦しいけれど、誰かの仕業だともやっぱり考えづらい。
動機も目的も見えないからだ。
澱をかき混ぜるような不安に苛まれたとき、授業開始のチャイムが鳴る。
ひそひそと何かを囁き合うようにしてクラスメートたちが席へ戻っていく中、とっさにその背中を捉えた。
「涼」
振り向いた彼の顔を見たら、張り詰めていた気が自然と緩む。
「さっきはありがとう。……うれしかった」
「……おう」
ぶっきらぼうな短い返事に、思わず小さく笑ってしまいながらわたしも席についた。
授業を終えての休み時間、教室に戻るとレジュメをファイルにしまっておく。
シャーレは取り替えてもう一度やり直すことになったけれど、今後はわたしもなるべく見張っておこう。
誰かを疑うみたいで嫌だけれど、もう“次”はないと思うから。
「いやー、大変だったな」
ふと涼がそう声をかけてくれて、わたしは眉を下げた。
厳しいことを言われたとはいえ、松田くんの怒りも早川くんの言い分も真っ当だと思う。
「でも謎だよね。偶然にしたって、羽衣の班のシャーレだけ毎回トラブル続きなんて」
パックのオレンジジュースを飲みながら歩み寄ってきた日和も混ざる。
それはその通りだった。