消して、奪って、きみだけを
「嫌がらせとかかもな。松田や早川みたいに、傍目には羽衣が責められる状況だったから」
「嫌がらせと言えば……また高橋とか?」
「それはないと思う」
眉をひそめて声を落とした日和に、反射的にそう返していた。
「何でそう言いきれるの? あのストーカー事件で逆恨みしての行動かもよ」
「だって……謝ってくれたよ、わたしにも叶人くんにも。本気で反省してるように見えたし、叶人くんにあそこまで言われてまた何かするとは……」
彼に詰め寄られた高橋くんは実際かなり怯んでいたように思う。
改心とまではいかなくても、十分懲りたはず。
沈黙が落ちると、日和がちらりと涼を見た。
すぐに視線を外したかと思えばまた窺うように一瞥する。
「何だよ」
「別にー。今回は叶人くんの仕業だとか言い出さないのかなと思って」
それを受け、今度は涼がわたしを窺った。
少し迷った挙句、口を開くものの言いよどむ。
「まあ……正直言えば怪しい。今回のことで誰が得するかって言ったらあいつだしな」
「得なんてある? 実験ができなかったら成績が危うくなるのは叶人くんだって同じじゃん」
「いや、あいつにとっては成績なんて二の次だろ。そのことでぜんぶ羽衣が悪いってなったら、あんなふうに庇うつもりだったんだよ。株が上がるし羽衣からの信用も得られるだろ」
「……やめて」
ふたりの話にたまらず割って入った。
ぎゅ、と膝の上で両手を握り締める。
「叶人くんは疑うべき相手じゃないって分かったはずでしょ? 前に涼はストーカーも叶人くんの自作自演だって言ってたけど、間違いだったよね」
そう言うと、彼はばつが悪そうに目を落とす。
「あのときも、今回だって……叶人くんは助けてくれてるよ」
彼がいなければ、きっとすべてわたしの責任になっていた。
何もしていないのに、表面上も自分の中でもプレッシャーや非難に押し負けて潰れていただろう。
涼はきっと、彼がどんな人か知らないから歪曲して見てしまうんだ。
わたしは、わたしだけは叶人くんの本当の笑顔を知っている────。
「きっと誰の仕業でもない。嫌がらせでもない。叶人くんが言ってた通り、不運が重なっただけの偶然だって思いたい」
思わずそうこぼすと、涼が何か言いかけた。
だけど、それを妨げるようにスマホが震えたようで、取り出して確認するとわたしたちに向き直る。
「……悪い、ちょっと行ってくる」
それだけ残し、教室から出ていってしまう。
誰かに呼び出されたりでもしたのだろうか。
「またなの? 最近ちょくちょくあるけど何なのよ」
「どうしたんだろう……」
近頃何だか様子のおかしな涼を思い、日和と首を傾げてしまうのだった。