消して、奪って、きみだけを
「おい、またかよ。何で授業のたびにトラブルが起きてんの?」
松田くんは入ってくるなりわたしに詰め寄った。
本当にどうしてなんだろう。
今回こそはできる限りのことはしたつもりだっただけに、衝撃を受けて呆然としてしまう。
「本当にちゃんと管理してんのかよ。ずさんすぎるだろ、いい加減にしろ!」
「……連帯責任なんだからまじめにやってくれ」
シャーレの状態を確かめた早川くんもまた、うんざりした調子でわたしに言った。
非難と失望の込もったそれぞれの眼差しに怯んでしまい、萎縮したまま思わずあとずさる。
“ごめんなさい”という言葉すら、引きつった喉からは絞り出せなかった。
(どうしよう……。どうしたら……)
もう信用を失ったどころじゃない。
確実にわたしがみんなの足を引っ張っているし、責められるのもなじられるのも仕方がない。
管理すらまともにできないんじゃ、ほかに何で役に立てると言うんだろう。
責任の重い役割をわたしなんかがどうして引き受けてしまったんだろう。
「ちょっと待って」
酸素の薄さに息苦しさを覚えた瞬間、目の前が翳った。
庇うように間に入ってくれた叶人くんはスマホを手にしている。
「この通り、今回も昨日まではやっぱり問題ないんだよ」
一昨日のように記録用の写真を提示しながら、物腰柔らかにそう言ってくれた。
わたしの位置からは見えないけれど、画面には何事もないシャーレがおさまっているのだろう。
撮影した日付も確認できるはずだし、わたし自身が見張っていた限りでも何の異変もなかったのに。
「だから何だよ? その写真が撮られてからいままでの間に何かあったってことだろ」
怒りがおさまらない様子の松田くんが、叶人くんを押しのけて高圧的にわたしを見下ろした。
荒んだ感情のままに鋭く睨めつけられる。
「分担してんだからちゃんと責任持ってやれよ!」
「……っ」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
そのうちてのひらからリノリウムの床の冷たさと、したたかに打ちつけた痛みが伝わってくる。
肩に衝撃が残っていて、突き飛ばされたのだと遅れて気がついた。
恐怖と動揺で心臓が早鐘を打つ。
身体が動かなかった。顔を上げられない。
松田くんにまだ凄まれているかと思うと怖くて、同時に無力感を突きつけられて。
ノイズみたいにさざめいていた騒ぎが次第に大きくなっていく。
髪がカーテンのように視界を覆う中、じわりと目の前が揺らいで、たまらず唇を噛み締めた。