消して、奪って、きみだけを
懐疑的な眼差しは非難の視線に変わり、ますます焦った様子の松田くんは勢いよくかぶりを振る。
何だか崖際に立たされているように見えた。
「ちがう! わざとじゃないんだって! ぶつかってたまたまひっくり返しちまって、それを元に戻そうとしただけで……!」
なぜか叶人くんだけでなくクラス全員に訴えかけた彼は、必死に弁明の言葉を繋いだ。
「でも、前にシャーレが割れてたこととかカビが生えてたこととかは知らない。あれは俺じゃねぇから。本当だって!」
ほとんどひと息で言いきって、向けられる無言の非難を跳ね返そうとしていた。
あくまでも今回のトラブル以外には関与していないという主張みたい。
「つか、何でこんなの撮ってんだよ。おかしいだろ! まさか、おまえが────」
「当たり前でしょ? “撮影係”なんだから記録しておかないと。嘘つきの証拠を」
叶人くんは冷ややかに笑って刺した。
氷みたいなその笑みが以前、高橋くんを追い詰めたときのそれと重なる。
「責任感がないのはどっち?」
「それ、は……」
「償う最後の機会だよ。羽衣に言うことがあるよね」
ゆらゆらと視線をさまよわせていた松田くんがふとわたしを捉えた。
刃のようだった先ほどまでの鋭い目とは全然ちがって、毒気も気勢も完全に削がれている。
それでも近づかれるとつい身構えてしまったものの、わたしの正面で足を止めた彼は勢いよく頭を下げた。
「……ごめん! 確かにぜんぶ俺の身勝手だった。犯人扱いされるのが怖くて、おまえのせいにした」
眉根に力を込めたまま、痛ましい表情で続ける。
「さっきも突き飛ばしたりしてごめん、本当に。怪我とかしてないよな?」
ひどく申し訳なさそうな面持ちも労るような言葉も、もうさすがに嘘とは思えなかった。
自分が責任から逃れるために、何としてもわたしを貶めようと焦っていた結果があの態度と行動だったのだろう。
「……大丈夫。松田くんも、わたしを信じてくれたならそれで」
頭ごなしの否定も突き飛ばされたことも、悲しかったし多少は腹も立った。
だけど、今回もわたしの代わりに叶人くんが怒ってくれたことでいくらか心が救われた。
わたしひとりだったら、自分の無実さえ証明できなかっただろう。
(それに……)
何となくだけれど、やっぱり松田くんはもう嘘をついていないと思う。
必死の表情も本物に見えたし、その言い分からして、シャーレが割れていたことやカビの件は彼の仕業じゃない。
そんな直感があったからこそ、なおさら必要以上に責める気にはならなかった。
「……桜木、俺も悪かった。何も知らずに言いすぎたよ」
「早川くん……」