消して、奪って、きみだけを
彼まで謝ってくれるとは思わなくて驚いてしまうものの、慌てて首を横に振った。
「いいの、大丈夫。大事な実験なのに、トラブルが続いて何度もやり直しになっちゃったことは事実だし……。わたしもごめんね」
もうこれ以上のトラブルと停滞は避けたいし、協力するべき班員同士の仲がこじれるのも嫌だ。
収拾をつけるならいましかないだろう。
一連の出来事は不可解ではあるけれど、感情のすべてが晴れたわけではないけれど、一旦ぜんぶ飲み込むほかない。
わたしの仕業ではないということと、悪意を持った犯人なんてやっぱりいなかったということが明かされただけで十分だ。
叶人くんのお陰で事態は収束に向かいそうだった。
────その後は特におかしなことも起こらず、つつがなく実験と記録を終えることができた。
どうしても少し気まずくはなってしまったものの、松田くんも早川くんも当初より協力的になってくれた。
叶人くんだけは相変わらずで、実験室での騒動なんてなかったみたいににこにこしていたけれど、和を保つ“箍”のようになってくれていたと思う。
わたしのつけていた記録をもとに、早川くんがレポートと発表資料をまとめた。
さすがと言うべきか、過不足もなく非の打ちどころがない内容で、実験段階でのつまずきを一瞬にして取り返してくれたようだった。
「マジで完璧じゃん。これで発表と提出したら絶対最高評価だな」
満悦した様子でそう言った松田くんは、とんとん、とその資料を机で揃えて抱える。
「よし、じゃあ当日まで俺が預かっとくってことで」
「ちょっと待て。おまえじゃ信用ならないから俺が持っておく」
遠慮のないもの言いで一刀両断し、早川くんは資料に手を伸ばした。
けれど、松田くんは退かずになだめる。
「それはその通りなんだけど……だからこそ俺に任せてくれないか? お詫びを兼ねて、今度こそ責任果たしたいんだよ」
わたしと叶人くんの方もそれぞれ窺い、控えめながらはっきりと口にした。
真摯に心を入れ替えたことは、あの騒動以降の彼を見ていればひと目で分かるし信頼できる。
「うん、わたしはそれでいいと思う」
そう言うと、松田くんははっと瞳をひらめかせた。
次に目を向けられた叶人くんは迷わずにっこりと笑う。
「羽衣がいいなら、僕も」
どんなときでも、本当に些細なことでさえわたしを尊重してくれるその優しさにくすぐったくなる。
いまこの瞬間があるのは間違いなく彼のお陰だ。
口をつぐんでいた早川くんは、松田くんの熱意ある眼差しとわたしや叶人くんをそれぞれ見て、観念したようにため息をついた。
「……分かった。その代わり、絶対なくさないでくれよ」
「当たり前だろ。ありがとな、みんな」
松田くんはうれしそうに顔を綻ばせ、資料をファイルに挟む。
責任を押しつけ合い、咎め合っていたときの亀裂はほとんど見えなくなっていて、信じて協力し合えるようになったことがわたしもうれしかった。