消して、奪って、きみだけを



 放課後、叶人くんとともに校舎を出て校門を潜る。
 タイミングが合ったので今日は涼と日和も一緒だった。

「けど、まさか松田の仕業だったとはな。シャーレが割れてたのとカビは知らねぇって……マジなのかな」

 ふと、涼が疑問を(てい)した。
 それに関しては松田くんも頑なに認めなかったし、謎のまま残っている。

「苦し紛れの嘘じゃない?」

「でもそんな嘘、意味あるか?」

 日和にそう返して涼は首を傾げる。
 違和感を見過ごせない彼がその点に引っかかりを覚えるのは理解に(かた)くなかった。

 だけど、どことなく胸がざわめく。
 前に叶人くんを“怪しい”と言っていた通り、未だに彼を疑っているんじゃないだろうか。

 いまだって本当は叶人くんの反応を窺っているのかもしれない。
 いくら何でも不躾(ぶしつけ)というか、叶人くんに失礼だ。

 叶人くんはどう思っているんだろう。
 遠慮のない涼の思惑に気づいているのかな、嫌な思いはしていないかな、と心配に駆られてたまらなくなる。

 何か言おうと口を開きかけたとき、彼が足を止めた。

「じゃあ、僕たちこっちだから。また明日ね、ふたりとも」

 気づいたら手首を取られていて、そのことにもその言葉にも戸惑ってしまう。
 “こっち”と示した先はバス停とは関係のない方向だった。

「えっ? ちょっと────」

 困惑した日和の声にも構わず、叶人くんはきびすを返す。
 連れられるがままにいつもは通らない角を曲がると、知らない風が髪を揺らした。

「ど、どこ行くの?」

 思わず尋ねると、半分だけ振り向いた彼は人差し指を唇に当ててみせる。
 その横顔には影がさしているような気がして心臓が沈み込んだ。

 たぶん、叶人くんも涼の思うところには気づいているのだ。

 いまばかりは、自分自身かわたしかどちらを優先したのか分からなかったけれど、どちらでもよかった。
 わたしがそばにいてあげられるなら。



「ごめんね、叶人くん。荷物ありがとう」

 ベンチの方へ駆け寄ると、そこにいた彼がふわりと微笑んだ。
 置いていた鞄のファスナーを開け、ハンカチをしまう。

「ううん、大丈夫だった?」

「大丈夫! すぐだったし綺麗になったよ」

 ────偶然通りかかった大きな公園に寄ったのだけれど、売店のそばで小さな子どもとぶつかってしまった。

 ソフトクリームを手にしていたその子が振り向きざまにわたしと行き当たってしまい、ひんやりとべたついたスカートをお手洗いへ洗い流しに行ったのだった。

 その子とその母親には平謝りされたけれど、むしろわたしが買い直してあげたいくらいだった。
 前をよく見ていなかったせいで台無しにしてしまって心苦しい。

「……よかった、じゃあこれあげる。色々大変なことが続いたけど頑張ってる羽衣へのご褒美」
< 73 / 152 >

この作品をシェア

pagetop