消して、奪って、きみだけを
そう言って差し出してくれたのは、カップ入りのミルクティーだった。
わたしがスカートを洗いにいっている間に売店で買ってくれたみたい。
「わぁ、いいの? ごめんね、ありがとう」
受け取ろうと両手を伸ばしたけれど、ひょいと引っ込められてしまう。
叶人くんは困ったとでも言いたげな表情をたたえていた。
「……羽衣、謝ってばっかり。何も悪いことなんてしてないんだからもっと堂々としてればいいんだよ」
「あ……」
「そんなに“ごめん”って口にし続けてると、自分がおろそかになっちゃうよ。もっと自分のこと大事にして」
ミルクティーと一緒に、思いがけない優しい言葉を受け取った。
心が震えて、あたたかくて、ほろほろと溶けていく。
「ありがとう」
そう言うと叶人くんもうれしそうに表情を綻ばせる。
彼の存在が染みるのは、もしかしたらわたしがそうやって無意識のうちにおろそかにしてきた部分を、丁寧に拾い集めて差し出してくれるからかもしれなかった。
鞄を端に寄せて彼の隣に腰を下ろすと、ストローに口をつける。
まろやかな甘さが身体中を巡るようだった。
「あ、叶人くんは喉渇いてない?」
「僕はカフェラテ買ったよ。飲む?」
カップを差し出しつつ首を傾ける叶人くんにどきりと心臓が跳ねる。
(“飲む?” って、それって……)
どぎまぎしながら思わずストローを見つめて固まってしまうと、ふっと彼は笑った。
「なんて。冗談だよ」
「もう……」
涼しい顔で楽しそうにカフェラテを含む彼を見て、頬に上った熱を冷まそうと手を当てる。
叶人くんの冗談は心臓に悪い。あまりにも。
ミルクティーをひとくち飲んで、加速する鼓動をどうにか落ち着けようと息をつく。
すると、自然と言葉がこぼれていった。
「あのね……本当にありがとう。今回のことも、叶人くんにはすごく助けてもらっちゃって」
不測の事態に見舞われても支えてくれたし、わたしが責められても庇ってくれたし、松田くんにも怒ってくれた。
それ以降、難なく無事に実験を終えられたのはひとえに叶人くんのお陰だ。
味方だと言ってくれた通り、わたしを信じて守ってくれた。
『────大丈夫?』
幕の内側で絶望的に消沈していたわたしに手を差し伸べてくれたときは、光が射し込んだように感じた。
引き上げられた舞台は処刑台なんかじゃなく、あたたかいスポットに照らされていた。
「叶人くんがいてくれてよかった」
すごくほっとした。うれしかった。
そう実感するのもいったい何度目か分からないけれど、気づいたらこぼしていた。
「当然だよ」
叶人くんはそう言うと、膝の上に置いていたわたしの手に触れる。
包み込むようにして握られて、引いたはずの鼓動と熱が一気に蘇りそうになった。
「僕に羽衣が必要なように、羽衣にも僕が必要なんだ。だからいつでも頼って。この前も言ったけど、僕だけが羽衣の味方だからね。どんなときでもそばにいる」
「叶人、くん……?」
「そのためにきみのもとへ戻ってきたんだから」