消して、奪って、きみだけを
     ◇



 迎えた発表当日の朝、早川くんが松田くんの席へ歩み寄っていくのを見かけた。

「松田、準備できてるんだろうな? 資料は?」

「大丈夫だって! 成績が絡んでるからってガチすぎるよ、おまえ。資料は忘れるとやばいと思ってロッカーに入れといたんだ」

 彼はおかしそうに笑って言うと、教室後方にあるロッカーの方へ向かった。

 自身の出席番号が書かれたその中を見るも、松田くんは「あれ」とこぼしたきり無言でロッカーを探っている。

「どうかしたの?」

 様子がおかしいように思えて、たまらず声をかけた。
 慌てたようにこちらを向いた彼の顔色は真っ青だ。

「ない……資料ぜんぶなくなってる! どうしよう、誰かに盗まれたのかも」

「うそ……」

 ロッカーにはそれぞれ扉はついているものの鍵はない。
 開けようと思えば誰でも開けられるし、それこそ盗むことだって人目を忍べばできてしまう。

 松田くんのロッカーの中は意外にもものが少なくて、教科書やノート類はほとんど入っていない。
 あるのは体育館シューズくらいで、紛れ込むとは考えづらかった。

 早川くんが呆れたように大げさにため息をつく。

「やっぱりこうなると思った。だからおまえに預けるのは嫌だったんだ」

「は? いまさら何だよ」

「責任を果たしたいとか言って、いざ問題が起きたらまた“誰か”のせいにして逃げるのか」

「逃げてねぇよ! 俺は────」

 苛立つ早川くんと、触発(しょくはつ)されて激昂(げきこう)する松田くん。
 ふたりの不穏な応酬(おうしゅう)を前にうろたえて途方に暮れてしまう。

 このままじゃまずい。
 あんなに苦労した実験も水の泡だし、レポートも提出できず、発表もできないなんてことになったら……。

「あ、あの!」

 ふたりの勢いに怯んでしまいながらも声を上げる。
 堂々としていればいい、と言ってくれた叶人くんの言葉を(かて)に勇気を振り絞った。

「なくなっちゃったものはもう一旦諦めて、いまからでもレポートと発表資料作り直さない? 授業は午後だし協力すればまだ間に合うよ」

 むしろ、資料を紛失したことにいま気づけてよかった。
 一瞬の沈黙のあと、険しい表情のまま早川くんが頷く。

「まあ……現実的にそれしかないな」

 それからきまりが悪そうに松田くんが言った。

「けど、どうする? データとか結果とか覚えてねぇよ」

「あ……わたし、記録用のレジュメ持ってきてるからそれをもとに進めよう」

 念のために持ってきておいてよかった。
 そう思いながら自分の机に戻り、ファイルを探る。

 けれど────。

「あれ……?」
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