消して、奪って、きみだけを
「ごめん。俺、結局迷惑かけてばっかで……自分のせいなのに桜木になすりつけようとするし、資料もなくすし」
眉を下げて素直にそう口にすると、心底申し訳なさそうにうつむいた。
「……俺も悪かった。いらついて今日もおまえらに言いすぎた。余裕がなかったんだ。本当に悪い」
目は合わせないままだけれど、早川くんまでそう言って苦い表情をする。
こうして実直に向き合ってくれたふたりに正直驚きつつも、わたしは首を横に振った。
「そんな……わたしもだよ。レジュメなくしちゃってごめん。やっぱり管理甘かったね、わたし」
思わず自嘲気味に苦笑すると、一拍置いて松田くんがおどけたように口を尖らせる。
「そうだよ。マジで苦労した」
「そういうとこだぞ、おまえ」
不満を垂れるように言った松田くんを、早川くんが鋭く両断する。
松田くんは「冗談冗談」と笑い、わたしもつられて小さく笑った。
「それ言うなら俺もだし。資料もレジュメもどこに消えたんだろ」
「本当に、叶人くんがいてくれて助かった。あのバックアップがなかったらと思うと……」
「ああ、若宮のお陰で最悪は避けられた」
それを受け、それまで口をつぐんで聞いていた彼はいつも通り穏やかに微笑む。
「念のため撮っておいてよかった。気にしないで」
人間関係にも何度か亀裂が入りかけたものの、最終的にここまで平穏に締めくくることができるとは思わなかった。
叶人くんが寂しさを感じることがないように、と願っていたはずなのに、ずっと中心にいたのが彼だったような気がする。
支えるつもりが支えられてばかりで、彼の存在がどんなに大きいか改めて実感した。
「……ってことがあってね」
あとで話す、と休み時間に言った通り、説明できていなかった事情を放課後に涼と日和にも伝えた。
聞き終えた日和は苦々しく腕を組む。
「最初から最後まで本っ当大変だったね。おつかれ、羽衣」
「ありがとう……」
しみじみと言って目を落とすと、ふと何かが横から差し出された。
苺味のワッフルだ。
「俺からの労い。よく頑張ったな」
言葉はぶっきらぼうで端的なくせに、行動も眼差しもなんて優しいんだろう。
そんな彼に何度救われたことだろう。
「ありがとう、涼」
「てか、食べかけじゃん」
「ちげぇよ、半分に割っただけだって。いつも通り」
いつもそうしていたはずなのに、何だか半分こするのも久しぶりな気がする。
そんなことを思いながら、受け取ったワッフルをかじった。
甘酸っぱい香りが漂って無性にほっとしてしまう。
「……でも、叶人くんと一緒の班だから羽衣には安泰そうだと思ったのに」
ふいに落ちた沈黙を破るように日和が言った。