消して、奪って、きみだけを
こうなったからには、俺としてはもう若宮を信用する余地なんかない。
脳裏に焼きついたうさんくさい完璧な微笑みが歪んでいく。
「本当に羽衣のことが好きで動いているのか、最初に考えた通り復讐が目的か……。どっちにしろ、若宮は異常な危険人物だ」
さすがに茶化す余裕もなくしていたのか、日和は考え込むように目を伏せた。
椅子の背に体重を預け、眉を寄せる。
「でも、さ……あたしは叶人くんより羽衣の方が気になる」
「どういうことだ?」
「最近の羽衣、おかしいよね。何でもかんでも叶人くんの言う通りって感じで」
今度は日和の声に熱が込もった。
前傾姿勢になったと思ったら、また背もたれに寄りかかってうつむいてしまう。
「些細なことだけど……マスコットのときだって、すぐ追いかけてこないであと回しにされたし。もうあたしは羽衣にとって二の次なんだよ。どうでもいいの。だから別にどうなったってもう知らない」
マスコットのとき、というのが何の話なのか詳しくは知らないが、少し前に喧嘩みたいにふたりの様子がおかしくなったタイミングの出来事だろうか。
億劫そうに瞬いて息をつく日和は完全にふてくされていた。
ここまで言うなんて初めてで驚くものの、逆に言えば、いままではそんなすれ違いすら起こらないほどお互いが絶対の存在だったのだろう。
羽衣は何かと日和を頼って、日和は満更でもなさそうに羽衣の世話を焼いていた。
あいつが困ったときに手を差し伸べるのは日和の役割だった。
俺だって同じ────一緒に登下校して、たまにワッフルを半分ずつ分けて、落ち込んだときにそばにいるのはこの先も俺の役目だと思っていた。
日和は俺よりも露骨に、若宮に“居場所や役割を奪われた”という感覚が強いのだろう。
いつの間にか羽衣の隣には当たり前のようにあいつがいて、手を差し伸べるのも気にかけるのもあいつの役割にすり替わってしまった。
まるで上書きするみたいに、押し出されていく感覚。
「俺は……おまえがそう感じることすら若宮が仕向けてると思うけどな」
器用なあいつのことだから、どうせ確信犯だろう。
日和がずっとやってきたことを、もっとうまく、もっと深く、羽衣に刺さる形でやって関係ごと塗り替えようとしている。
若宮を信用しない、という前提がなければ、それは当然ながら羽衣に不満を募らせていくことになる。
日和はそのことに気づいた様子で、はっと見張った目を揺らがせた。
「じゃあ、このこと羽衣に伝えなきゃ。叶人くんが実は危険なやばい人だって……」
「言ったろ? 羽衣はあいつを信じてる。疑うべきじゃないとまで言ったんだ。いまの状態で俺たちがどう忠告したって響かないどころか、羽衣を悲しませるだけ。若宮の悪口言ってるようにしか聞こえねぇだろうからな」
だからもどかしいのだ。
どれだけ言葉で訴えかけても、ノイズにしかならないから。