消して、奪って、きみだけを
●第4章 残響
「────ということで、うちのクラスは“純喫茶”に決まりました!」
“正”の横棒を黒板に書き終えた委員長は、チョークを置いて朗々と宣言した。
授業時間内ではあるけれど、かなり緩い空気に包まれた6時間目のホームルーム。
文化祭のクラス企画が投票によって決まり、教室のあちこちから舞い上がったような拍手が起こる。
「時間あるから係とかも決めちゃいたいんだけど……」
「はい! あたし、接客やる!」
そう言って元気よく手を挙げたのは日和だった。
副委員長が“接客係”と追加で黒板に書いて、その下に“夏目”とチョークを走らせる。
その隙に席を立った日和はこちらの方へ来て、掴んだわたしの手を持ち上げた。
「羽衣も同じでお願いしまーす」
「ちょ、ちょっと……わたしは裏方でいいよ!」
勝手に掲げられた腕を引き下げながら慌てる。
そんな花形のように目立つ役回りには慣れていないし気が引けてしまうのだけれど、日和は楽しそうに笑って背中を押してきた。
「大丈夫大丈夫、涼と叶人くんもつけるから」
「“つける”って何だよ。つか、勝手に決めんな」
涼は抗議するも、黒板には既に“桜木”と付け足されている上に、副委員長は既に“篠崎”と書き始めていた。
「いいね、特に若宮くんが接客係やってくれたら助かる。大盛り上がり間違いなし! 最優秀クラスに選ばれちゃうかも」
現金な委員長がうれしそうに手を打つと、女子たちが色めき立つ一方で一部の男子は不満を垂れる。
だけど、どこにいても確かに彼は目立つし、クラスの女の子でさえこの様子なら当日は学年問わず人が押し寄せそうだと思った。
「買い被りすぎだと思うけど……うん、でも僕でよければ」
叶人くんは困ったように照れ笑いしたものの、頷いて快諾した。
「じゃあ俺も」
それを聞き、最初は難色を示していた涼がなぜかすかさずそう言って手を挙げる。
わたしは正直決めかねているけれど、既に決定事項みたいになってしまった。
「大丈夫だよ、何か困ったらサポートするし心配しないで。……それに」
どうしよう、なんて考えていると叶人くんが優しく気にかけてくれる。
すっと耳元に顔を寄せてきた。
「羽衣のかわいい衣装姿、見てみたいな」
手を添えて囁かれた言葉にどきりとする。
何を想像して期待しているのか分からないけれど、そう言われたら断れない。
頬が熱を帯びていくのを自覚しながら小さく頷くと、叶人くんは満足そうに微笑んだ。
◇
「お待たせ、叶人くん……!」
「ううん、いま着いたところだから」
街路樹の下に佇む彼のもとへぱたぱたと駆け寄って息を整える。
正真正銘のデートに誘われて、昨夜は緊張してなかなか眠れなかった。
そのせいで少し寝坊してしまい、慌てて準備を済ませると余裕のないまま飛び出してきたのだった。
「思った通り、私服の羽衣もかわいいね。これもよく似合ってる」
わたしの左手首に触れた彼は愛しむようにブレスレットを撫でた。
チャームが揺れて小さな音を立てる。
(この間から、何だか距離が近い気がする)