消して、奪って、きみだけを

 ブレスレットを贈ってくれたことそのものもだけれど、こうして触れられることも、惜しげもなく繰り返される“かわいい”という言葉も、わたしの心臓をいじめるには十分すぎる破壊力なのだ。

 わざとなのか天然なのか、熱を持て余していると叶人くんが首を傾げる。

「どうかした?」

「あんまり言わないで……。かわいい、とか」

「どうして? 本当にかわいいのに」

 彼はくすりと笑うと、人差し指で頬をつついてくる。

「照れてる羽衣も」

 もう、と呆れて怒ってみても相変わらず余裕の笑みは崩れない。
 彼には敵わないことを思い知って諦めた。

(……でも、こういう一面は知らなかったな)

 わたしの記憶の中にいる叶人くんは、もっと静かで大人しくて気弱な印象だった。

 確かにわたしといるときだけは笑顔も見せてくれたけれど、こんなに近くはなかったし、こんなに甘くもなかったと思う。

 いったい、いつからその目にわたししか映らなくなったのかな。
 彼はいつから変わったんだろう。

(ちがう……。叶人くんだけじゃなくて、わたしたちだ)

 変わったのはわたしも同じだった。
 あの頃はどちらかと言えば、いまと真逆でわたしが彼の手を引くような関係だったはず。

『……こわくないの? 僕のこと』

 小鳥のことは偶然だったけれど、それからは望んで叶人くんのそばにいた。
 あの日彼に言った通り、もっと知りたくて。

 そして────“守りたい”と思った。“助けたい”と思った。
 何から……?

(そんなふうに思ってたはずなのに、わたしは何をしちゃったんだろう)

 記憶の空白が埋まらない。
 自分の罪の正体も、どこまでも甘い彼の秘密も、ぜんぶそこに隠されているのに。

 どうしてそんな大事なことを忘れてしまったんだろう。
 たまらず落とした目の先に、すっと手を差し伸べられた。

「行こうか」

 揺らぐことのない柔らかい微笑みを見つめて「うん」と頷く。

 自然と繋がれた手を見て思った。
 いま、手を引いてくれているのは間違いなく叶人くんの方だ。



 道路に面したそのカフェは、まるでお菓子の家みたいなかわいらしい雰囲気だった。
 クッキーみたいな木の看板と、チョコレートみたいなレンガの壁。

 内装はケーキのデコレーションみたいで、甘いにおいが漂っていた。
 大きなくまのぬいぐるみまで席に座っていて、絵本の中に飛び込んだみたい。

 童話の世界のようなファンシーな空間にいると、叶人くんもまたいっそう王子さまみたいに見えてくる。

 そんな彼は注文を済ませたあともメニューと睨めっこしていた。
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