消して、奪って、きみだけを
けれど、もともと伏し目がちなのか彼女は目も合わせてくれない。
長い睫毛が頬に影を落としていた。
「はじめまして、若宮叶人です。きみは?」
眩しいほどのあの笑顔で名乗った叶人くんが、彼女を見て尋ねた。
彼女は一瞬うろたえたように視線をもたげてまた落とす。
「……立原美怜」
叶人くんとは対照的に決して愛想がいいとは言えないながら、それでも答えてくれた。
その名前にも何となく覚えがあって、思いついたことが口をつく。
「もしかして、隣のクラス?」
「ああ。羽衣、知ってんの?」
「ううん、体育のときに聞いたことあった気がして。クラス合同だから」
先生が何度か「立原さんはお休みね」と名簿をチェックしているところを見聞きしたことがある。
こんなことをわざわざ覚えているということは、きっと数回程度じゃないはずだ。
「そういうことか。こいつ、体育のときはだいたい保健室に逃げてんだってよ。だから合同でもあんま見覚えなかったのかもな」
「逃げてるんじゃない。休んでるんです」
涼を見やり、堂々と言い返した彼女を見て少し驚いてしまう。
はいはい、と大雑把に返した涼もだけれど、思ったより親しそうというか波長が合っているように見えた。
「あ、そうだ。こっちは桜木羽衣な。俺の幼なじみ」
涼がわたしを指し示して伝えてくれて、慌ててぺこりと頭を下げる。
名乗りそびれてしまっていたことに気がつき、自分でも「桜木羽衣です」と口にした。
彼女の目がまた一瞬、こちらに向く。
鋭いというより冷めた眼差しだった。
「み、美怜ちゃんのクラスは何するの?」
内心たじろいでしまいながら尋ねるものの、彼女は何も言わず顔ごとふいと逸らす。
完全に無視されたことに戸惑うと、涼がため息混じりに言った。
「お化け屋敷だって。……羽衣、気を悪くしないでやってくれな。こいつ、人見知りなんだよ」
「別にそういうわけじゃ……」
フォローした涼を見て抗議しかけた美怜ちゃんだったものの、途中で言葉を切って再び視線を落としてしまう。
な、と困ったように肩をすくめた涼に苦く笑い返した。
確かにわたしとも叶人くんとも目を合わせようとしないし、そもそも話したくないのか心を閉ざしているように見える。
その一方で涼のことはしっかり見ていて、話していて、何だか疎外感を感じた。
そんなことを思った矢先、わたしたちを一瞥した彼女が呟くように言う。
「……お似合いだね、ふたり」
思わず叶人くんと顔を見合わせ、遅れて心臓が騒ぎ出した。
焦りながら言葉を探すわたしに対し、落ち着き払っている彼は満更でもなさそうに笑う。
「ありがとう。でも、それを言うなら立原さんと篠崎くんの方こそ恋人同士に見えるよ」