消して、奪って、きみだけを
────確かに立原の言う通り、さっきは羽衣と若宮を見ていることがしんどかった。
俺が入り込む余地なんてない。
そのことを真正面から突きつけられているみたいで。
そもそもこのタイミングで、立原と一緒にいるタイミングで、羽衣と鉢合わせること自体が最悪だったのに。
やましいことなんて当然何もないが、何だか誤解を生んでいそうでもやもやする。
それでも、やっぱり俺の信念は揺らがない。
「……俺は俺なりにあいつを守りたいだけだ」
「気に入らないだけじゃないの? いきなり現れた完全無欠の“王子さま”のことが」
立原は眉を寄せ、じっと見つめてきた。
言い方は淡々としているけれど、その目には確かな温度がある。
熱いか冷たいかは立原自身にしか分からない。
「まあ……否定はしねぇ。けど、好きとかそれ以前に、羽衣は大事な友だちだから。傷ついて欲しくねぇんだよ」
ただの嫉妬なんかじゃない。
無論、嫉妬していないわけでもない。
それでも、一番大事な根っこはそれ以外になかった。
抱え続けていた重い感情の片側を一緒に持つとか、落ち込んだときに苺のワッフルを半分ずつ分け合うとか、たぶんそれが俺という存在のあり方なのだと思う。
“恋人”とか“友だち”なんてラベルは関係なく、ただ羽衣が気を抜ける居場所でありたい。
笑っていて欲しい。それだけだ。
ふと、立原は静かに息をついた。
伏せられた目は憂いを帯び、陰って見える。
「……足が痛くなってきた。あなたのせいで」
「わ、悪かったよ。そっちも持つか?」
やっぱりさっき速く歩きすぎたのだろうか。
慌てながら肩に提げているショルダーバッグを指して尋ねるも、立原はゆるりと首を横に振る。
「いいです」
ぎこちなく歩き出した立原のあとを、ビニール袋を持ち直して追った。
◇
叶人くんが向かい側の席に戻ったのを何となく目で追ってから、未だに驚きが抜けきらないのを自覚する。
いつにない涼の様子が心に引っかかっていた。
(でも、そっか。最近やたらスマホを気にしてたり、急に教室から出ていったり……あれは美怜ちゃんのためだったんだ)
その存在も事情もついさっきまで何も知らなかった。
今日だって、こうして偶然会わなければきっと知らないままだったはず。
責任感から、怪我が治るまで手助けしているのは分かった。
けれど、どうしてひとことも言ってくれなかったんだろう。
どうして、涼があんなふうにフォローするんだろう。
「────彼のことが気になる?」
もやもやと燻る思いが、無意識のうちに顔に出ていたのかもしれない。
ふと叶人くんに尋ねられて我に返った。