消して、奪って、きみだけを

「あ……ううん、深い意味はないよ」

「本当に?」

 端正(たんせい)な彼の顔にいつもみたいな柔らかい笑みは浮かんでいない。
 眉を寄せて、焦がれるように聞き返してきた。

「羽衣は、篠崎くんのことどう思ってるの? ずっと気になってた」

 どくん、と心臓が重たげな音を立てる。

 穏やかだけれど、どこか不安気で儚げな声色に胸が締めつけられた。
 わたしが彼の立場でも、きっと聞かずにはいられないと思う。

「涼は……友だちだよ」

 中学時代からの幼なじみであり、わたしにとって大事な友だち。
 振り返ってみるとどの思い出のページにも彼がいて、その存在の大きさを改めて実感した。

「いつしか一緒にいることが当たり前になりすぎて、いないと逆に何だか落ち着かないくらい」

 いままで何でも打ち明けてきたし、お互いのことはきっとほとんど知り尽くしていると思う。

 わたしの空白の記憶だけは、どうやら涼にさえ言えなかったみたいだけれど、それ以外に隠しごともなければ嘘だってない。

 だからこそ、正直────美怜ちゃんのことで少なからず衝撃を受けてしまった。

 何も言ってくれなかったことが意外だったというか、驚いたというか、寂しかったというか。
 大したことじゃないけれど、大したことじゃなくても、いままでなら話してくれたはずなのに。

(……って、こんなのわがままだよね。わたしだって叶人くんとのことは言えなかったわけだし)

 そう思うのにここまで動揺が尾を引いてしまうのは、叶人くんが言っていたように、涼が美怜ちゃんのことをよく理解していたから?

 知らない間に仲よくなっていたから?

 それこそお門違いな感情にほかならない。
 わたしは何を勘違いして、涼に何を求めていたんだろう。

「そんな顔しないで。……僕がいるのに」

 ふと降ってきたそんな言葉に顔を上げると、叶人くんは微笑んでみせる。
 それから遠くを眺めるような眼差しを落とし、小さく呟いた。

「……昔から変わらないんだね」

「え?」

 何が、だろう。
 記憶の空白部分に、ごっそりと抜け落ちたページに、手が届きそうでどきりとする。

 だけど、顔を上げた叶人くんの表情を見た途端にすべての感情を(さら)われた。

 まるで泣きそうなほど儚い微笑みが、わたしの心臓に刃を突き立てる。

「篠崎くんが羨ましいよ」

「叶人くん……」

「離れ離れになってから、羽衣には僕の知らない時間があって、思い出があって、それを彼と共有してるんでしょ。寂しいよ、どうしても。一緒にいることが当たり前になるほど近い場所に、ずっといたんだね」

 叶人くんと会えなかった間、確かに知らないことや変わったことは増えただろう。

 わたしと涼の思い出だって、その外側にいた叶人くんは知り得ない。
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