消して、奪って、きみだけを
だけど、7年越しに戻ってきたらわたしのそばには涼がいて、わたしは彼を“大事”とまで言った。
それは実際に確かなのだけれど、叶人くんにとってはどれほど大きな衝撃だったことだろう。
驚きと寂しさと、わたしが美怜ちゃんのことで涼に感じたみたいな複雑な感情に見舞われたはず。
もちろん、それより何倍も何十倍も大きな波として。
そんなふうに想像が及ぶと、締めつけられた胸が苦しくなった。
わたしはまた、気づかないうちに叶人くんを悲しませていたんだ。
何も言えずに瞳を揺らがせるわたしの左手に、叶人くんの手が重ねられる。
「本当に羨ましいよ。……妬ましいほど」
はっと思わず目を見張る。
ふいに声色が変わったと思ったら、彼の顔にさした影の色が濃くなっていた。
ぎゅう、といっそう強く手を握られ、驚くと同時に怯んでしまう。
「本当は僕のものだったはずの居場所に、羽衣のそばにい続けたことが。僕よりも長いこと羽衣と一緒にいたことが。……僕はどんなに望んでも叶わなかったのに」
そう言った瞬間、ふっと力が緩められた。
寂しそうな、恨めしそうな表情で顔を背けた彼から、いつもの余裕は失せている。
たまらず口を開こうとした瞬間、ずき、と頭痛がした。
頭の中でガラスが砕け、その破片が噛みついてくるみたい。
『叶人くん、いなくなっちゃうんだって』
────そう言ったのは、当時のクラスメートだっただろうか。
パリン! と何かが割れるような甲高い音が響いてかき消される。
次第に雨のにおいが立ち込めてきたような錯覚を覚えたとき、今度は傘が雨粒を弾く音がした。
わたしの視線の先には、大人たちに囲まれる幼い叶人くんがいる。
お城を守る兵士と、傘の盾。
「……っ」
思わず瞑っていた目を開ける。
心臓がばくばくと打ち、指先は体温を失っていた。
(いまのって……)
まさか、失ってしまった記憶の断片だろうか。
本当にパズルのピースほど些細な欠片だったけれど、わたしはやっぱり大事なことを忘れている。
(……思い出さなきゃ)
このままじゃただ叶人くんに甘えているだけで何も変わらない。
自分の罪から目を背け、逃げ続けているようなものだ。
ちゃんと思い出して向き合わなければならない。
あんな泣きそうな顔も、こんな悲しい顔も、叶人くんにさせたくないから。
◇
「────って感じでどうかな。男子はほとんど制服のままで活用できるし、女子は手芸部の子がアレンジしてくれれば費用は抑えられると思うんだけど」
本格的に文化祭準備が始まろうとしていて、今日のホームルームもその時間にあてられていた。
委員長や副委員長とともに、方針や予算案について話し合う叶人くんを遠巻きに眺める。