消して、奪って、きみだけを
接客係の衣装は、男子は制服を活用しつつブレザーだけ脱いでネクタイを蝶ネクタイに替える。
女子は黒色のワンピースと白いエプロンが必要になるけれど、ベースは安価で仕入れて手芸部員が手を加える。
そんな叶人くんの案なら、低予算でも純喫茶のイメージを十分に実現可能だった。
接客係になった女子はわたしや日和をはじめ、身長や体格が似ているので、シフトごとに着回すことができる。
「おお、いいね。メニューの方も手軽でそれっぽい感じだし」
アイディアをまとめたルーズリーフを眺め、委員長は素直に感心していた。
この間、カフェで話していたように、フードはプリンやホットケーキがメインで、ドリンクはクリームソーダやコーヒー、紅茶、ミルク系を提案したみたい。
「さすが若宮くん! これすごくいいよ、本当に。ありがとう!」
委員長も副委員長も心からの賞賛と感謝をあらわにしていて、不満そうだった男子たちも感化されたのか一転してもてはやし始めた。
いつの間にか輪の中心にいる。
それを見てひそひそと弾んだように囁き合う女の子たちの色づく頬を見ると、少し複雑な気持ちになってしまう。
(人気者だなぁ、叶人くん)
再会してからは何かと話題と注目を集める存在になっていた。
かっこよくて、何でもできて、優しくて────挙げたらきりがないほどのその魅力にみんなが気づいたら、それはもう瞬く間に雲の上の存在になるに決まっている。
何だか既に少し遠くなったような気がする。
そうやって人が集まったら、わたしよりもっと素敵な人が現れて、きっとわたしへの気持ちも薄れて、そのうち存在ごと忘れ去られてしまうのかもしれない。
いまは当然のように向けられている微笑みも想いも、そのうち泡みたいに消えるのかな。
平凡なわたしには、それでも繋ぎ止められる自信なんてない。
(叶人くんはわたしなんかのどこがいいんだろう?)
考えれば考えるほど不思議だし、見れば見るほど彼が眩しい。
思わずブレスレットに触れると、心に冷たい風が吹きつけた。
わたしなんてもう必要ないんじゃないのかな。
あの頃みたいにわたしが手を引かなくたって、彼は堂々と前に進めるようになっていた。
わたしが気にかけるより先にみんなの中心に立っていた。
彼に向けられる眼差しの種類もあの頃とはちがう。
寂しい思いをしてしまうのは、むしろわたしの方だった。
「羽衣ー!」
考えても仕方がないことを考えてしまい、鬱々と沈みかけたところに日和が駆け寄ってくる。
「手芸部の子がぱぱっと描いてくれたの! 衣装のデザイン図だって、見て見て」
掲げられた手元のルーズリーフには、叶人くんの原案をもとにした男子と女子の衣装のイラストが描かれていた。
「ねぇ、エプロンのポケットのところに小さいリボンつけてもらおうよ。色違いだったらかわいくない? 羽衣は何色が似合いそうかなー」