消して、奪って、きみだけを
「あー、買い出しだって。あんたはどこ行ってたの?」
「早めにダンボール確保してきた。足りるといいけど」
持ってきた分を指して答えると、日和は珍しく素直に「有能」なんて褒めてくる。
こいつが素直になるなんて、真夏に雪が降るくらい例のないことで鳥肌が立ちそうだ。
「てっきりまたあの子のところかと思ったのに」
「まあ……でも、とりあえずは自分のクラス優先だろ」
駆り出されるかもしれないから否定はしきれないが、当面は応じられない。
うちのクラスの準備が進んで完成の目処が立てば、立原のサポートにも回れるが。
「そうだ、思い出した。この前の休み、カフェで偶然あいつと羽衣に遭遇したんだよな」
「え、何それ?」
足を痛めているくせになぜか買い出しを引き受けた立原の付き添いで、あちこちを巡っていた日のことだ。
おもむろに“疲れたから休憩したい”と言い出した立原が、付近のカフェをスマホで調べたらあの店が出てきた。
まさか、そこにあのふたりがいるなんて夢にも思わない。
そんな一連の出来事を伝えると、日和は分かりやすく顔をしかめる。
「うわー、それで羽衣にも見られちゃったんだ? その子……立原さん? と、あんたが一緒にいるとこ」
「……タイミング最悪だよ」
うなだれるように頷いた俺の脳裏に、わざとらしい若宮の微笑が蘇った。
何が、恋人同士に見える、だ。
羽衣の前で余計なこと言いやがって、と唇を噛み締める。
「あれも狙ってのことだったらぞっとするよ。……さすがにありえねぇだろうけどさ」
あの道沿いを通りかかったのも偶然だし、あの店だってたまたま立原が検索して見つけたところだ。
運が悪かったということなのだろう。
「でもさ、何かもう猶予がない気がする。羽衣はもう完全に叶人くんに騙されてる……っていうか、信じきってる。あの子は押されたら断りきれないと思うし。これじゃもうふたりが付き合うのも時間の問題だよ」
それはどうやらいつもの冗談ではないらしい。
眉根に力を込めた険しい表情の日和は、きつく両手を握り締めた。
「どうすればいいの?」
羽衣を奪われるかもしれない、失うかもしれないという危機感がかなり現実的になってきてしまったのだろう。
俺はどちらかと言えば、それが羽衣の本意なのかどうかが強く気にかかっていた。
あいつのそばにいること自体も、日和の言うようにもし付き合うなんてことになった場合も、それは本当にあいつの意思なのかどうか。
────ただ……あれからずっと、後悔があって。罪悪感って言う方が正しいかな。片時も忘れられないの。……彼に謝りたくて。
そう言っていた羽衣は、いまはもういない。
あいつ自身、そうこぼしたこともその理由も忘れてしまっている。