消して、奪って、きみだけを
だけど、その罪悪感の根は残っているかもしれない。
そうでなくとも、覚えていない自分への違和感や不信感だって利用されてもおかしくない。
肝心な記憶がないのをいいことに、若宮がつけ込んで羽衣の気持ちごと塗り替えてしまったら。
選択肢どころか、意思を奪っている。
それだけは許すべきじゃない。
「俺は、一度ちゃんと羽衣と話してみる。聞きたいこともあるし」
あいつが現れる前は覚えていたであろう過去の話、それさえ思い出してくれれば────。
「……分かった。じゃあ、あたしは羽衣と叶人くんを引き離す」
「え? 本気か?」
「当たり前でしょ。要するにこれって“先に出会ってた初恋”か“長く一緒に過ごした絆”の戦いでしょ? あんたも頑張ってよね。あたしは涼を応援してるんだから」
そう言って小突いてきた日和は、またしてもかなり素直な調子だった。
そのことにも、応援してる、なんてまっすぐな言葉にも驚いて揺れてしまい、気抜けしかけてはっと我に返る。
「ちょっと待てよ。“引き離す”なんて簡単に言うけど、そんなもんどうやって……」
「いいこと思いついたの。考えがあるからあたしに任せて。うまくいけばあんたの望みも叶うから」
日和は得意気に笑ってみせると「あ」と思い出したように声を上げた。
「手芸部の子に呼ばれてるんだった! ちょっと行ってくる」
慌ただしく手芸部員たちの席の方へ向かった日和を目で追い、首を傾げてしまう。
「俺の望み……?」
少なくとも、あのふたりを引き離すなんていまやとても現実的とは思えなくなっていた。
絶対にひと筋縄ではいかないし、下手をすればこっちがやられかねない。
日和の“考え”とは何なのだろう。
もはや賭けてみるしかないのかもしれないが、何だか無性に嫌な予感がした。
◇
学校を出て叶人くんとふたりで歩いていると、この間蘇りかけた記憶の断片のことが気にかかってきた。
あれは何の記憶だったんだろう。
核心の部分はまだ薄布の向こう側にあるみたいに思えて、分からないことばかりで手応えがない。
(そういえば、どうして叶人くんと離れ離れになったんだっけ?)
彼が再び転校していってしまったような覚えはあるけれど、理由が思い出せない。
家庭の都合?
そして、あんなにずっと一緒だったわたしたちはどうやって別れたんだっけ?
「羽衣、どうかした? 何か考えごと?」
穏やかに尋ねられ、顔を上げる。
その優しい眼差しにも距離感にもほっと気が緩んで、わたしはほのかに頬を綻ばせた。
「昔のことを思い出してたの」
そう言うと、気のせいかもしれないけれど叶人くんの表情が強張った。
ぴくりと一瞬眉をひそめ、隙のない瞳に捉えられる。
「……どんなこと?」