消して、奪って、きみだけを
「あのときの叶人くんのこととか、色々。あ、小鳥のお墓のことも思い出したんだ。あれから話すようになったんだよね、わたしたち」
いまとはまるで正反対だった、あの頃の彼。
笑わず、話さず、日陰にひとり閉じこもって、まるでお人形みたいに、光の射さない綺麗な瞳にただ世界を映していた。
ふと叶人くんが気を抜いたように小さく笑った。
懐かしむような優しい横顔を見ていると、やっぱりさっきの表情は気のせいだったと思えてくる。
「そうだね。……実はあのとき、怖かったんだ。羽衣に誤解されるんじゃないかって」
「え? 誤解?」
「いろんな噂があったでしょ。みんな僕を気味悪がってたし……。だから、あの小鳥も僕が死なせたと思われるんじゃないかって、すごく焦った」
言われて思い返せば、確かにあのとき彼は何かを訴えかけるように首を横に振っていた。
あれは、そう言いたかったんだ。
腑に落ちると同時に思わず笑ってしまう。
「そんなの思うわけないよ! 叶人くんは優しい人だって分かってた。あんな根も葉もない噂……どうしてみんな信じてたんだろう」
怖いわけでも気味が悪いわけでもなく、あの頃からあんなに優しかったのに、誰もそのことに気づかないで遠くから眺めているだけだった。
「……そうだね」
再びそう頷くけれど、先ほどとは何だか響きがちがって聞こえた。
また気のせい? なんて考えているうちに、叶人くんは目元を和らげる。
「でも、僕はそれでよかった。羽衣さえ分かっててくれれば。知っていてくれれば、それだけで」
その宝石みたいに綺麗な瞳にわたしだけを映し、彼は甘やかに笑った。
「……あのとき現れたのが羽衣じゃなかったら、きっと“いま”もなかったし、いまの僕もいなかった。僕にとっては本当にきみだけが世界のすべてなんだよ」
そんな言葉をどう受け止めればいいのか分からず、何も言えなかった。
────わたしたちの“始まり”の記憶は既に取り戻し、こうしてはっきりと覚えている。
いったいほかに何を忘れているんだろう?
消えてしまった記憶はどこに眠っているんだろう。
小鳥の思い出を振り返ってみても、いまのわたしたちを顧みても、どうしても喧嘩のような衝突があったとは考えづらい。
だから、謝らなければならないようなわたしの罪にまるで見当がつかなかった。
『叶人くん、いなくなっちゃうんだって』
風に吹かれたように胸がざわめく。
彼はどうしてわたしの前から“いなくなった”のか、やっぱり気にかかった。
「どうして……わたしたち、離れ離れになったんだっけ?」