朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
第4話 サインと証
僕たちはロープウェイを降りると、短くクラクションを鳴らす音が聞こえた。
赤い軽自動車。いつもの新の姉ちゃんの車だ。
僕はまだ赤い頬に白い吐息を漏らして、無言のまま調子が悪そうにしている有希に向かって言った。
「あの車、部活で後輩の姉ちゃんの。茜さんって言うんだ。悪い人じゃない」
「本当の悪い人は悪い人って顔してないわよ」
「ハハ、そうだな。とにかく悪い人じゃねんだ。乗ろう、有希」
「湊月が言うなら」
有希はそのままスタスタと車に乗りこみ、会釈さえしない。
さすがは性格の悪い友達ゼロの女。
「湊月くん、久しぶり。その子は新しい彼女?」
茜さんは、あまりに勝手な有希の態度に少し驚いたようだが、いつものような優しい表情にすぐ戻って冗談を言う。
「ねぇ茜さん、その過去に何人も彼女が居たみたいな言い方やめてください。しかもこの子は有希と言って、ただの悪友です……」
「ふふ。松葉杖、後ろに入れるわ。乗って」
「ありがとうございます」
僕はロープウェイの上の出来事で、もう心を決めていた。
自然にあぁなった訳じゃない。僕はそんなに器用じゃないし、過去に彼女なんていたこともない。
なのに、自然に身体が動いた。きっと僕の頬も有希と同じくらい紅潮しているはずだ。
さっきから心臓もドクドクとうるさい。こんなの初めて知った。
ーーこれを”恋”と言わずして、なんと言うんだ。
車は発進する。
街はキラキラと輝いて、僕はその景色を忘れたくないと思って目に焼き付けた。
「先輩、久しぶりっス! 元気そうで安心しました。抗がん剤とか聞いてたから、てっきり先輩がすごいやつれてたらって」
「そんなにやつれねぇよ」
「後輩くん。でもこの人、多分死ぬわよ。置いていかれる方は寂しいわ。しっかり心構えしときなさい」
「おい、有希……」
「先輩……そんなの嫌です。オレはまた先輩とバスケしたいっす」
あまりに真っ直ぐすぎる新の言葉に僕は少し泣きそうになった。
赤い軽自動車。いつもの新の姉ちゃんの車だ。
僕はまだ赤い頬に白い吐息を漏らして、無言のまま調子が悪そうにしている有希に向かって言った。
「あの車、部活で後輩の姉ちゃんの。茜さんって言うんだ。悪い人じゃない」
「本当の悪い人は悪い人って顔してないわよ」
「ハハ、そうだな。とにかく悪い人じゃねんだ。乗ろう、有希」
「湊月が言うなら」
有希はそのままスタスタと車に乗りこみ、会釈さえしない。
さすがは性格の悪い友達ゼロの女。
「湊月くん、久しぶり。その子は新しい彼女?」
茜さんは、あまりに勝手な有希の態度に少し驚いたようだが、いつものような優しい表情にすぐ戻って冗談を言う。
「ねぇ茜さん、その過去に何人も彼女が居たみたいな言い方やめてください。しかもこの子は有希と言って、ただの悪友です……」
「ふふ。松葉杖、後ろに入れるわ。乗って」
「ありがとうございます」
僕はロープウェイの上の出来事で、もう心を決めていた。
自然にあぁなった訳じゃない。僕はそんなに器用じゃないし、過去に彼女なんていたこともない。
なのに、自然に身体が動いた。きっと僕の頬も有希と同じくらい紅潮しているはずだ。
さっきから心臓もドクドクとうるさい。こんなの初めて知った。
ーーこれを”恋”と言わずして、なんと言うんだ。
車は発進する。
街はキラキラと輝いて、僕はその景色を忘れたくないと思って目に焼き付けた。
「先輩、久しぶりっス! 元気そうで安心しました。抗がん剤とか聞いてたから、てっきり先輩がすごいやつれてたらって」
「そんなにやつれねぇよ」
「後輩くん。でもこの人、多分死ぬわよ。置いていかれる方は寂しいわ。しっかり心構えしときなさい」
「おい、有希……」
「先輩……そんなの嫌です。オレはまた先輩とバスケしたいっす」
あまりに真っ直ぐすぎる新の言葉に僕は少し泣きそうになった。