朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
それを見た茜さんが諭すようにゆっくりと話に混ざる。



「有希さん? 貴方は随分現実を見て生きてるのね」



「私も、家族も皆、もう終わりの準備をしてるから。傷付くのは決まってる。死を経験しなきゃ思いしれないこともある。それでも、だからこそ今を大事にして生きてるんです」



「有希さんは立派ね。もうなんの迷いもないみたい」



ふぅ、と息をついて、有希は続けた。



「いいえ。死んだら何も持っていけないから。後はもう託すんです。次の誰かに」



「有希は家族から何かを託されたのか」



「どうだろ。家族がいて、見守られて死んでいけるって、それだけで十分だと思うけど」



「きっとミトコンドリアも喜ぶ」



「ふふ、そうよ」



僕は誰かに何かを託せるだろうか。

それとも、託す前に死ぬのだろうか。

新が僕を見る泣きそうな瞳に、悔しさよりも、先に胸に刻まれる”何か”があった。



それは、生きたいという”サイン”。

それは、まだやれるという胸に光る”証”。



「新、有希、茜さん。僕は確かに余命宣告されてます。でも、まだ死ねません」



「なら、先輩。自分にできること、ないですか」



「共犯になってくれ」



「は?」



「またこうして病院を抜け出して、今度は有希と学校に行きたいんだ」



「先輩、それは……医者とか怒られませんか」



「良いわよ。湊月、私は付き合うわ」



「ありがとう、有希」

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